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第10話

【恵果No6】 朝陽さんの怒りは何に対してなのか。 もう恋人もいて、私になぜ憤るのだろう。 「これが私の普通です、構わないでください」 そう突き放せば帰ると思っていたが、そばに座り込み黙って私の回復を待ってるかのような姿に涙が隠しきれているだろうか。 気付いた時には遅いとはまさに、この事。 朝陽さんが他の人に触れられるのがこんなにも私を追い詰めるなど、思いもしなかった。 無理やり体を起こして、早く帰さなくてはと思ったのに、思いのほか体に力が入らずに崩れた時。 がっしりした腕に、厚みを増した胸の中に...抱き留められた。 縋り付きたい思いを抑えふと思い出した...この腕の中にいた他の存在が、急に心を闇に引き戻すのに、更に追い打ちを掛けられた。 「あの…図面を届けてくれたのは恵果さんですよね?ありがとうございました」 その言葉に心地いい腕を押し退けて、私は感情のままに朝陽さんに訴えた。 「あ、あんなっ、人の通り道でっ、口付けなど!」 そこで私は口を閉ざした。 今は何を言い出すかわからない...こんなのは、ただの嫉妬だ... 口篭ると朝陽さんがひざ掛けを私の肩に掛けてくれて一気に顔が熱くなった。 今の私は全裸で...肩に掛けられた布を前に引いて体を隠した。 羞恥心がなぜここで沸くのか頭で理解できないまま朝陽さんが「妬いているんですか?」なんて、聴いてきて。 驚いたように視線を向ければ、なんだか嬉しそうに私を見てる。 そんな優しい視線に耐え切れずに慌てて目を逸らした。 「やっ、妬いて...なんか、いません!そ、それに雲英さんを置いて来て大丈夫ですか?」 落ち着かなければと思いながらも、言葉が切れ切れとなってしまい、自分の不甲斐なさにキュッと唇を噛んだ。 「…どうして名前を知っているんですか?」 驚いた様に聞かれて、私はとんでもない事を言ってしまったのだと口を閉じた。

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