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第11話

【朝陽No.6】 「これが私の普通です、構わないでください」 気だるげな様子の恵果さんが、きっぱりとした口調で言った。いきなり目の前で扉を閉ざされたような感じがした。 5年前なら子供だからあしらわれたと思っただろうが、今は違う。もうこの人の住む世界に入り込む余地はないのだろうか。 あんなに拒絶されたのに、この部屋から出る気にもなれず、少し離れたところに座った。 ぼんやりとした瞳が少しうるんでいるように見えたけれどすぐに目を逸らされた。 雲英との事、どこまで見られたのだろうか?それを聞く勇気もなかった。ただ、他人の触れた痕跡の残る美しい身体から事後の余韻が消えるのを待っていた。 やがて恵果さんが体を動かして起き上がろうとした。あ、と思う間もなく上半身を支えていた腕が崩れてまた床に落ちそうになった。反射的に抱き止めると、口を開いてため息ともつかぬ音にならない声を漏らした。 「あの…図面を届けてくれたのは恵果さんですよね?ありがとうございました」 言いながらしまったと思ったが、もう遅かった。 恵果さんの表情が険しくなり、脱力していたはずの身体が腕を押しのけて起き上がった。 「あ、あんなっ、人の通り道でっ、口付けなど!」 真っ赤になっている恵果さんを見て、一瞬何を言われたのか分からなかった。ようやくその意味を理解した途端、自分の中で何かがぱちんと弾けた。思わず笑いそうになるのをこらえて部屋を見渡し、手近にあったひざ掛けか何かを何も身に着けていない恵果さんの肩に掛けると、微かに震える手が直ぐにそれを引っ張って身体の前を隠した。 「妬いているんですか?」声が弾むのは隠し切れなかった。 しどろもどろになって目を逸らす様子に、思わず抱きしめたくなるのを堪える。 「やっ、妬いて...なんか、いません!そ、それに雲英さんを置いて来て大丈夫ですか?」 恵果さんに似ている以外何もない雲英の事などどうして聞くのだろう。いや、それ以前に… 「どうして名前を知っているんですか?」 去り際に妙に自信ありげな雲英の様子を思い出した。

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