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第12話

【恵果No7】 もう、口から零れ落ちた言葉は訂正など出来ず私は朝陽さんに話す決意をする。 「先程、朝陽さんに会う前に寺の門の所にいて少しお話をしました」 あれは待ち伏せされていたと言っても齟齬(そご)はないだろう。 私に敵意を剥き出しにした若獅子の様な目で睨み付けられた。 「雲英は…もうただの友人です。何を聞いたのですか?」 その言葉に愕然とした。 まさか嘘を私に向けて吐くなど...私はそんなに、騙されやすいですか?そう思ったら腹立たしさが前に出て来た。 「なぜ、私に嘘をつくのですか?彼は恋人と言いました、あんな道端で...口付けも交わしてたのに...」 あの衝撃に身を焦がした私が、まるで道化のようで悲しかった。 「あれは…最後にと思い…もう彼に対する気持ちはありません」 信じろと言うのか...その言葉を。 「朝陽さん、貴方の言葉をどう信じればいいかわかりません」 思うより口が先に動いた。私は...どこを理解すれば良いのですか? 私は...朝陽さんを信じたいのか...? 「恵果さん!俺が雲英と付き合ったのは…、彼とは大学にいた時だけです。こっちに来る時に別れています」 なら何故、恋人と私に言う必要があるのか。 「雲英さんは、私に貴方を〝帰して〟と、仰ってた...あちらの世界へ帰った方がいいのでは無いですか?」 もう、私の気持ちは真っ黒に染まり嫉妬に狂い咲いた百合の花のように私を浸食していく。 「あなたは、俺が帰ってきた理由を本当に分かっていないのですか?どうして大規模プロジェクトに入れてもらえる機会を蹴って親父の会社に戻ってきたのか」 まるでその物言いは、私の事を考えているかのようにも取れる。 まさかと思いつつ朝陽さんの黒い瞳の中を覗くよに見つめ、昔の様に奥に宿る強い思いに身震いを起こす。 「わかる訳ないじゃないですか!」 そう、私は戻ってこさせるためにあんな酷いことを言ったわけじゃない...なのに、すぐに手を取られた。 「…本当に?」 あぁ、また私はこの人に囚われるのか。 「っ...わか、りたくありません...」 ただの駄々をこねる子供みたいに首を振って否定を口にした。 朝陽さんの顔が私の近くまで来て私は逃れる術を知りながら、奥底でこの男が欲しいと欲が芽生えていた。 「俺はもう大人です、欲しいものは自分で取りに行く事にしたんです」 その言葉に、あろう事か体が一気に熱を帯びていくのが自分でも解る程で...目の前にある精悍な顔が、私だけを見ている事に胸が熱くなる。 「ほ、欲しいって...」 この人は私を欲してる...そう、伝わって来る。

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