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第14話
【恵果No8】
欲しいなどと、だめだ、自惚れに支配されそうになる。また、あの時の二の舞は踏みたくない。
「人が、来たら困りますから着物を取ってもらえますか?」
私は自分の前をどうにか隠して箪笥を指さした。
朝陽さんは、私の頼み通り私の肩に襦袢を掛けてくれた。そのまま肩に置かれた手の熱が私の心を震わせ、思わずその手の上に...自らの手を乗せた。
「欲しいなどと、簡単に言うものではありません...」そう、告げたら背後から強く抱き締められた。
「あなたは、欲しくないんですか?」
そう、耳に届いた声は甘く私を唆す。
ダメだと解ってる、もうあんな辛い別れをしたくない...それでも私を包む大きな腕に身を委ねてしまいたい。
「私は...」
どう、答えればいいか思いあぐねる。
答えが導き出されぬまま朝陽さんの顔が私の方へと寄せられて、思わず手で頬を撫でた。
「貴方は私を...欲しがってるんですか?」
腕の中で私はくるりと向きを変えれば朝陽さんの両腕は私の背中へと回り私は、肩に頭を預け尚頬を撫でた。
指先をゆるゆると動かして、男としての朝陽さんをしっかりと手のひらが感じ取る。
「欲しい…、何も言わずに指先だけで俺を誘ってくるあなたが欲しい」
あぁ、その言葉に体の中の血液が沸騰するみたいに体を駆け巡ってゆく。
動かしていた指先を、朝陽さんの引き締まった唇に置くと、待っていたかのように口がゆっくりと開く。
「はぁ...」と、興奮した息がどちらから漏れたのかもわからない。
唇をなぞる様に滑らせて、私も朝陽さんの表情を見詰めながら自分の唇を舐めとると指を口の中へ滑り込ませた。
指をくまなく舐めては、艶のある瞳は私を見据えてて、それだけで頭が沸騰するみたいにグラグラと沸き立っていた。
ねっとりと指を舐られると、熱くなり甘い息が漏れ出ると、容赦なく届く言葉にさらに熱を孕む。
「指…の次はどこですか?」
低く甘く私に告げる言葉。
私はゆっくりとした口調で返事をする。
「今の貴方なら、わかるでしょう?」
私も完全に欲しているのだろう。
酩酊状態の様に興奮して、もう一度彼の唇を撫でる。
「分かりません、あなたは俺をどうしたいのか教えて下さい」
体を少し沈めて、私はぺろりと朝陽さんの〝喉仏〟を舐めて甘い息がとめどなく口から漏れ出る。
そのまま顎先に唇を落とし、朝陽さんの唇の数センチ前に顔を寄せて体を擦り寄せた。
「口を...吸ってくれますか?」
古風な言い回したが、今の私は言葉など選べなかった。
「では恵果さん、あなたの舌を下さい」
その言葉に目を見開いた。
あの時の...私の言葉そのものを貴方から聞かされるとは思ってもなかった。
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