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第20話

【恵果No11】 携帯の呼び出し音にビクッと体を震わせた。 あれから、何度も朝陽さんを帰してと連絡が入るようになってまたなのかと... 根気よく付き合ってあげれるほどの、心の余裕は私にはなかった。 恐る恐る携帯に手を伸ばせば、そこには“朝陽さん”の名前。 急いで電話を取って耳に寄せると、近くまで来ているとの事で寄るように伝えれば、あっさりとそのつもりだとの返事に久しぶりに会える。 もう、近いと言っていたから私は慌てて、朝陽さんの出迎えに走った。 「っ!」襖に足をぶつけてしまい、ジンジンと足が痛んだが会いたい気持ちが先立って急いで玄関口まで行くと、ふぅ...と、息を付いた。 足の小指はジンと痛むのに、それすらも忘れる高揚感に曇り硝子の向こうに、白い影が立った。 それだけで彼だと...わかる自分に喜びまで感じてしまいながら、早く早くと子供のように待てない逸る心のままに開けば驚いた様な顔があった。 「こんにちは、直接お話した方が早いかと思い」 そう、理由を告げてくれたけど会えた喜びの方が大きくて、慌てて手を並べたスリッパに向けた。 「どうぞ、上がってください」 そう促し中へと入ると、どうも落ち着かず茶を出した。 その後は私のやることはなく、朝陽さんが色々進捗を話してくれている。 髪を耳にかけて、纏めてないと気づき、括るけどどうにも上手くいかない。 括る紐を手で伸ばしたり丸めたりを繰り返す事でソワソワした気持ちを誤魔化した。 「最近お会いしていませんでしたが、変わった事はありませんか?」 その言葉に驚いた私は、ハッと慌てて茶を倒してしまった。 「あっ...ふっ、拭くものを持って来ます」 急いで、雑巾を取りに部屋を出た。 手に取り戻れば、部屋から電話の音が響き私はさらに焦りの色を濃くして部屋へと戻れば、朝陽さんが携帯の画面をジッと見ていた。 額から...嫌な汗が滑り落ちる感覚に我に返り駆け寄った。 「朝陽さんっ、私のですよね!」 急いで携帯を手に取ろうとしたら、朝陽さんが私の前に手を伸ばして強い眼光を向けられた。 「俺が、でます。いいですね?」 相手は、きっとあの人だ...怒気を含んだ声が腹の底から響くように聞こえた。 シンと、静かな空間で電話の声は遠いながらも漏れ聞こえる。 やっと出た...かのような言い回しに、青ざめるしか無かった。 やはり相手が一方的に話をしてて暫く聞いていたかと思うと、息を吸い込んだ。 そのタイミングで私もコクリと喉を鳴らした。 「もういい、もう十分だ、雲英。その辺でやめろ」 朝陽さんの、眉間に寄せられたシワが深くなり私はそれを唯見守るしかできない。 「俺がこっちに戻ったのは自分の意思だ。雲英、お前と過ごした時間は返せないけど、俺を罵って済むんならいくらでも聞く。そのためなら今からでも会いに行く。だからここにはもう電話するな」 その声に、私はただ呆然と聞いていた。 「一方的に出て行って悪かった、ちゃんと謝りに行くから」 そう言って私の手に電話が戻るが胸はじくじくと痛みを発していた。 「ご迷惑をお掛けしてすいません」そう、切り出されて泣きたくなった。

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