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第23話

【朝陽 No. 12】 雲英の所に行ききっちりと詫びて全てをきれいにしようと決めた。 頭を上げると、恵果さんは胸元を押さえたまま表情を硬くしていた。何か言おうとしているのか、唇がわずかに動くけれどそこから言葉は出てこない。 「大丈夫です、二度と恵果さんにこんな事はさせません」 恵果さんの瞳が揺れる。 「私の...携帯に連絡をさせない為に、あの人の所に戻るのでしょうか?」 言葉の意味をもう一度考えて、ようやく気が付いた。この人は、俺が雲英の元に行く事を心配しているのだ。 「戻るのではなく詫びに行くだけです。雲英とはもう別れています」 そう言いながら、ゆっくりと近づいて腕を伸ばしたら抵抗なく胸の中に収まってくれた。 怒っているのか怯えているのか、微かに震える身体を無防備に預けてくれる。背中に回された華奢な腕が甘い衝動を揺り起こし、そのまま全部自分のものにしたくなる。 でも恵果さんの口から出たのは、そんな気持ちを諫めるような言葉だった。 「別れていて...それでも、朝陽さんを愛しているんですね...彼は」 「俺の知らない所であんな酷いこと言われてた癖に、そんな事言わないで下さい」 どうにか絞り出した言葉も空しく響く。自分のせいでこの人に汚い言葉を聞かせてしまったことが悔やまれる。 「でも、どうして着信拒否しなかったんですか?」 素朴な疑問だった。 「それを、したら寺に直接かけてくると...」 その愚かなやり口に頭に血が上った。声を荒げたくなるのを押さえて一つ深呼吸をする。 「そんなの愛でもなんでもない、執着です。雲英からの電話はいつから…、これまで何回かかってきてるんですか?警察には…」 思わず矢継ぎ早に問いただした。恵果さんは腕の中で身を固くし、暫くためらってから諦めたように全てに答えてくれた。 「朝陽さんが、雲英さんを送って帰った翌日からで、回数はもう覚えていませんし警察になんて知らせたらこんな狭い町ですぐに噂になるのは朝陽さんが1番よく解ってるでしょ?」 そう言うと俺の身体を押し遣った。 きっとさっき聞いたよりももっと酷い事を言われてきたに違いない。きつく結んだ唇が、それを思い出しているかのように震えている。 「ずっと一人で抱え込んでいたんですね…」 もう一度抱きしめたかったけれど、逸らされた視線がそれを拒絶しているようで動けなかった。 直ぐに雲英に会いに行こう、こんな馬鹿気た嫌がらせを止めさせなければならない。

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