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第24話
Side story (雲英と朝陽)
車を走らせて雲英の、いや二人で住んでいた部屋にやってきた。
深夜を過ぎているがまだ起きている筈だ。電話を掛けると、すぐに出た。
「なに?」
「今部屋の前だ。開けろ」
返事はなかったが、少しすると雲英が扉を開けた。
「上がるぞ?」
恵果さんに似た顔で、喜びを隠そうともせずこちらに近づいてきた。勝手な事をしてあの人迷惑をかけた事は許せないが、見慣れたベッドを指さして無邪気に話し掛けてくるのを見ていると、短い期間だったけれどここに一緒に住んでいた時の事を思い出す。
しかしその声にさっきの電話を思い出してまた怒りが湧き上がってきた。
ベッドに腰かけるように促す手を振り払い、勝手にリビングに上がり込むと、雲英は素直についてきた。
恵果さんに二度とあんな電話を聞かせる訳にはいかない。怒鳴りたくなる気持ちを抑え、一つ息をついてから言った。
「ちゃんと説明せずに出て行って悪かった。俺はもう親の会社を継いであの町で暮らしてゆく事にしたんだ。お前はやりたい事があるんだろ?こっちで…頑張ってほしい。それと、恵果さんは恋人でもなんでもないから、もう電話するのは止めて欲しい…」
そう言って雲英を見ると、涙を落としながら縋り付いてきた。
「ね、朝陽やだよ...なんでそんな事言うの?あの人、そんなに大事?オレの方が何倍も可愛いよ?朝陽の事大好きだよ?どうして?どうしてダメなの...」
雲英はかわいい、そして俺の事を見てくれている。でも雲英では駄目なんだ。
勝手に代役を押し付けた俺が悪いのは分かっているが、恵果さんの代わりになる人なんてどこにもいる筈がない。
腕にまとわりつく手を引きはがし、床に正座して雲英を見つめた。突然の行動に驚いたのか、泣く事も忘れている。
手を床に付け、何も言わずに深く頭を下げた。
叩かれることを覚悟していた、罵られることも。でも雲英はただ静かに呟いただけだった。
「わかったよ...も、頭下げなくていい、もうしない」
玄関でもう一度詫びて部屋を後にした。重い気持ちが一気に消え、これでもう恵果さんも俺も無意味なしがらみに惑わされることはないと思いながら帰りを急いだ。
※雲英:吐夢
話の進行にあたり、雲英sideの話も出てきますので今後はご承知置きを願います。
────
【雲英】
静かな部屋で電話が鳴った。
携帯を見て別れてから1度も連絡のなかった人からの着信に慌てて電話を受ける。
「なに?」
「今部屋の前だ。話がある」
すぐに言葉が来て、この部屋の前に来てるのを知る。
戸を開けて、勝手に足を踏み込んでくる朝陽は、やはりオレの大好きな人。
「上がるぞ?」
と、部屋に入ってくれる喜びに駆け寄った。
手を取ってオレはベットへと引く。
「ほら、朝陽の好きなベットカバーのままだよ!座って」
ベットまでのたった数歩すら、朝陽は拒むようにオレの手を払った。
中へ進むから、後を追って行けば朝陽はオレを見て口を開いた。
「ちゃんと説明せずに出て行って悪かった。俺はもう親の会社を継いであの町で暮らしてゆく事にしたんだ。お前はやりたい事があるんだろ?こっちで…頑張ってほしい。それと、恵果さんは恋人でもなんでもないから、もう電話するのは止めて欲しい…」
やはりオレは捨てられるのか...
「ね、朝陽やだよ...なんでそんな事言うの?あの人、そんなに大事?オレの方が何倍も可愛いよ?朝陽の事大好きだよ?どうして?どうしてダメなの...」
涙がボタボタ落ちて、苦しくて...その気持ちをアイツにも味合わせたい。
頭を深く下げる朝陽に、オレは言葉が見つからなかった。
いつも気位が高くシャンとした姿が印象的だったこの人をここまでさせたのは、あの恵果だから。
「わかったよ...も、頭下げなくていい、もうしない」
全てはあいつのせいなんだよ...
朝陽は、帰り際にもう一度謝って帰っていったけどオレは気が収まらなくて飲みに出た。
行きつけのゲイバーで、浴びるほど飲んで夢に朝陽が出て来て前の様にオレを抱いた。
朝陽...朝陽と、何度も呼んで達した満足感に幸せな夢を見た。
朝、目覚めてまず驚いたのは腰の重さと横の温もり。
朝陽が帰って来てくれたのかと喜んだのに、寝ていた人は別人だった。
「おはよう」
そう言って目を細める男は随分と顔の整った男でどう見てもここはオレの部屋...
「あっ、えっと...おはよう」
「アサヒ?じゃなくてごめんな?」
そう言われて胸が締め付けられた。
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