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第25話
【恵果No13】
早朝の務めをする為に、支度を終わらせた。長い髪が邪魔になるので後ろ髪を束ねて外へと出た。
まだ、朝晩は冷えるなと思いながら箒を動かせば車の音が聞こえる。
視線を向ければ門の前に朝陽さんの車が停まって駆け寄った。
「おはようございます…お出掛けですか?」
「はい、出社前にお伝えしようと思って。昨日雲英に会ってきました」
ドキリとした。
会ってきた...その帰りならば、先程まで一緒だったのかと胸が黒く淀む。
「そう、ですか...」
会えた事に喜ばしいはずが、気持ちが急に暗転してしまった。
そんな重くなった気持ちの私を朝陽さんは当たり前のように抱き締めてきて、驚いてると。
「ちゃんと片づけてきました。もう電話もしないと言っていたので安心して下さい」
「ぁ、はい...ありがとうございます」
朝の眩しいくらいの光の中、私を抱き締めてくれる逞しい腕の中、安堵の息が漏れる。
そっと片腕を回し、朝陽さんの温もりを求める。
「朝陽さん...ありがとうございます」
感謝の言葉を再度口にする。
そして、朝陽さんは仕事があると車で去っていったのを見送りその日は過ぎていった。
◆
ある日の夕暮れ、檀家帰りに彼が前の様に寺の前で立っていた。
早まる心音を察した自分は、歩調を緩めて歩く。
何も声を掛けられず、一瞬だけ安堵したがやはりそうは行かなかった。
「無視?」
声を掛けられ足を止めた。
口元が切れていて、誰かと殴りあったのかと思い咄嗟に出たのは朝陽さんだった。
「何か用ですか」
平静を装っても声が震えた。
「朝陽を、帰して...オレの元に帰してよ」
そう、泣きながら縋られ困惑した。
私はただ知らないと押し通し、雲英さんは帰してと、懇願する。
そんな事を繰り返す内に本当に私は彼の夢も希望も全てを打ち砕いてしまったような絶望感を感じた。
数分のやり取りで、雲水が私を気にかけて来てくれて彼は去っていったが酷く胸が傷んだ。
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