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第29話

【恵果No15】 朝陽さんが来てくれると言うことで、私は落ち着きなく入口をウロウロとしていた。 何から話せばいいのか、どう伝えたらいいのか。 心はもう限界だと悲鳴を上げていた。 人の気配に、慌てて扉を開けば朝陽さんが驚いた顔で立っていたから無言で手を掴み靴を脱ぐ暇も与えず中へ入る事を促した。 「恵果さん、顔が真っ青です。大丈夫ですか?」 そう、聞かれたが振り返るだけで口は開けなかった。 何もかも流れ出してしまいそうで、私は無言で部屋へと入り、汗ばむ手を離したら朝陽さんもゆっくりと座った。 私はどうしたらいいのか。 目の前に座った朝陽さんをジッと見て息を吐く。 「急な呼び立て、応じてくれてありがとうございます。」 そう伝えて、頭を下げた。 「そんな他人行儀な言い方をしないで下さい。雲英はまだあなたに電話を掛けてきているんですか?」 いきなりの真っ直ぐな質問に固まった。 額から嫌な汗が流れで口内に溜まる唾液を飲み込んだ。 「そうですね、まだ電話は来てます」 震えてるのを気付かれてるかもしれないなぜこんなに緊張しているのか、今の自分の状態を自分が1番認識出来ていないのかもしれない。 「ご迷惑をおかけしてすいません、俺のせいです」 手をついて頭を下げてくる朝陽さんに、私は何を望めばいいのか。 私はこの人を...求めてから波乱は更に酷くなるばかり。 気軽に居れたあの時とは全く異質のこれは、恋愛なのだろうか、情なのだろうか。 「もう一度、雲英に会ってきます」 そう、朝陽さんが結論を出した。 私ではなく雲英さんの所へと向かうのだ。 こんなに苦しい私の心を貴方は凍り付かせてしまった。 熱に浮かされ、愛などと勘違いしたのは私だ。 去りゆく朝陽さんを見送りながらも心にピキピキと音を立てて氷が膜を張っていく感覚に、笑っていた。 顔は笑っていたのだ...なのに、一筋の涙が握り締めた手に落ちた。 あぁ、辛いんだな。 私は今とても苦しいのだ。 もう立ち去った朝陽さんを止めることも出来なかった私は、そのまま脩慈さんへと連絡を入れた。

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