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第33話

【恵果No16】 あれから何日が過ぎたか、私は朝陽さんのことを考えない様にと日々務めた。 脩慈さんも、ちょくちょく来てくれるようになり満たされていたのは確かだった。 「それじゃ帰る」 脩慈さんが、私を抱き寄せて唇を重ねられて、これだけはと拒んでいたあの頃をふと思い出した時、視界に朝陽さんを捉えた。 あぁ、見られてしまった。 ならば、最後まで見ていればいい...私は、色に狂った人間だ。 脩慈さんの大きな背中へ手を回し朝陽さんをジッと見ながら脩慈さんの口付けを受けた。足音が聞こえると脩慈さんは慌てて振り返る。 .「恵果さん、もう止めてください」私の腕を強く離されると、私はただ黙って事の成り行きを見ていた。 「もう、恵果には会うなと言っただろ?」 と、ニヤリと勝ち誇った顔で笑う脩慈さん。 その言葉に、私と会う前にこの2人は会っていたのかと驚いた。 「これは俺と恵果さんの問題です。あなたにそんな事を言われる筋合いはありません。ご自分の居場所にお帰り下さい」 その言葉に、脩慈さんが朝陽さんの胸倉を掴むから、止めに入ろうと思った時だった。 「恵果は俺に連絡してきたんだ、お前じゃなくてな」 そうだ、私は...この人に救いを、求めてしまったのだ。 目の前で私の事で争うのはやめて欲しいと伝えようと足を踏み出したら、朝陽さんが脩慈さんの手をひねり上げた。 「そろそろご家族が心配されているのではありませんか?」 その言葉に、脩慈さんは一言も反論せずに帰って行く。 あれだけ、熱く求められても、口付けを交わしても彼は帰る場所があるのだと胸が痛む。 そして彼は無言で帰っていくと私はここには居られないと踵を返した。 「恵果さん!」 強く呼ばれて驚いた。 この人の言葉はいつも私の中で生きるのだ。 私は足を止めて、小さく... 「なんですか?」 そう答えた。 もう私も限界だ、この人に振り回させるのは苦しいのだ。 「5年前、気持ちが通じたと思ったのは気のせいだったと思ってました。でもこちらに帰ってきてあなたにお会いしてそうではなかったと気付きました」 また、この人は私を揺らすのか...。 その気持ちが蘇るのが怖くて逃げ出そうとしたら手を掴まれた。 「雲英にやきもち焼いたり、そんな風に拗ねてみせるのなら、全部俺が引き受けるからもう他の男は全部忘れて下さい」 そう、言われてなにかが弾けた。 「貴方はっ、私がどんな思いで、あの時辛く当たったか考えた事がありますか!? 私はもう、ずっと前から貴方しか...貴方の事しか見てなかったのにっ!」 感情に任せて出た言葉に、ハッと我に返るが朝陽さんが驚いた表情を見せた瞬間に言葉を理解してしまった。 「俺の事?…恵果さん、そうなんですか?ではあの男を選ぶと言ったのは嘘だったんですね!…あなたという人は、本当に!」 そう言って、抱き締められた苦しさに身悶えた。 「選んでなど、いませんっ勝手に勘違いしたのは、貴方ですっ...も、離してくださいっ」グイグイと厚い胸板を押し返してもビクともしない逞しさに、頬まで熱くなってくる。

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