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第38話

【朝陽 No. 18】 ゆっくりと背中が離れ、再び近づく気配があった。振り返ろうとした時後ろから恵果さんに抱き絞められた。そんな(ささ)やかな事にさえ、まるで子供のように心が浮き立ち心臓が跳ねる。 首を捻って顔の横にある耳元に唇を寄せ、囁いた。 「やっと俺のものになってくれるんですね」 その言葉が可笑しかったのか恵果さんは笑った。 「私のものでもありますね」 そうだ、いやそうではない。ずっと前から俺はとっくにあなたのものです。 恵果さんは昔よくやってくれたように頬を寄せて来た。柔らかく滑らかな肌の感触が5年前の記憶と重なって、もっと欲しくなる。 「俺はもう子供じゃないので、そんなのじゃ満足できません」 「子供では無いですね、もうちゃんとした大人の男です」 子どもっぽい言葉を否定もせずにそう言うと、柔らかい笑顔のまま恵果さんは目を閉じた。 引き寄せられるようにキスをしながら身体の向きを変えて、もどかしく抱き合った。 こちらの唇を開けばそれに呼応して口が開かれる。互いの熱を舌先で確かめ合うと甘いため息が漏れて来た。 「んっ、もっと...下さい」 一瞬唇が離れ、今度は恵果さんの方から強請るように求めて来た。背中に回してきた腕が強く身体を掻き寄せる。 必死に縋る手がすでに欲にあらがえない事をシャツ越しに伝えてきた。 恵果さんの身体を支えながらゆっくりと畳に横たわらせ、背中に置かれた手を外して指を絡めた。一旦深くキスした後にわざと舌を引いて顔を覗き込むと、驚いて泣きそうな表情でこちらを見ている。 「欲しいものは全部俺が与えます、何があっても」 恵果さんがくれたのは俺が一番聞きたかった言葉。 「貴方が...欲しいです」 ずっと思い焦がれていた人にそんな可愛いことを言われて正気でいられる訳がない。すぐにでも着物を()いで無茶苦茶にしたい衝動を抑えて、空いている方の手の指を髪に絡めながら口の端にキスをした。 赤く熟れた唇が何か言いたげに動く。 「もう全てあなたのものなのに、俺の何が欲しいのですが?ちゃんと言って下さい」 腕を回してぐっと頭を引き寄せられた。 「全て私のならば…解るでしょう?もう、私のは堪えきれないほど貴方を求めている事を」 耳に当たる吐息が、その合間に出す声が、甘い。 鼓膜を震わせる柔らかい声が心を沸き立たせ、身体は恵果さんの全てを味わいたいと強く求める。 絡めていた指を握りしめると、下からぐっと腰を擦りつけられた。どちらともなく声が漏れる。

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