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第51話
【恵果No25】
あれから幾日か過ぎて、待つと言い残した事を後悔した。
会いに行こうか、忙しいかもと繰り返す自分にうんざりしかけた時に電話が鳴り勢いで受けてしまった。相手の呼び掛けに久しぶりだと思いつつも喉が張り付き声が出なかった。
「恵果さん、お忙しいですか?声が聞きたい…、会いに行っていいですか」
と、朝陽さんの声に胸が熱くなる。
ずっと、連絡を待っていたのだ。
寝る時もいつもは、そこら辺に置いておく携帯を握りしめて眠り朝に確認をして何度肩を落としたか。
「お仕事、忙しいのですよね?私なんかに電話していて大丈夫なのですか...?」
本当は今すぐにでも会いたいと言えたら良いのに私の口からこぼれた言葉は、気持ちとは裏腹なものだった。
そんな、ちぐはぐな自分に溜息が零れそうになった時、電話の向こうでは笑いを堪えるような短い息遣いが耳に届いた。
「怒らないで下さい、あなたに電話をしたかったんです。会いたい、すぐに会いたいです…」
軽やかに思いを口に出来る朝陽さんに、恨めしく思いながらも答える。
「私は待つと言いました...」
これ以上は嫌味になりそうで言葉を詰まらせてしまった。「すぐそちらに行きます、あと少しだけ我慢して待っていてください」と、声が響いた後、何か音が聞こえて電話が途切れた。
これから、来てくれるのかと思うと顔が緩んでしまい、慌てて鏡の前に立つと、髪を整えてハッとした。
どれだけ楽しみにしているのかと自分を諫め、ずっと握りしめてた携帯を置く。
いつ鳴るのかと目だけは携帯ばかりを見てしまうから、わざと視線を逸らすのにやはり気になり目を戻すを繰り返した。
それにしても遅いと思い、携帯を持って外に出た。
待っても、やはり来ない朝陽さんに事故でも起こしたのではないかと焦りを感じ門を飛び出すと同時に車が私の前に停まった。
助手席が開いて「乗ってください」と、待ち望んだ声に従い車へ腰を下ろした。
朝陽さんは何も言わずに車を走らせた。
私は膝の上で握った手を1度強く握って言葉を吐き出すための息を吸った。
「さみしかった...です、せめて、電話位は...」
なんて事だ。
つい思いが口をついて出て、ひとつ深呼吸を入れてからもう一度と口を開いた。
「お仕事で忙しくなるのは聞いていましたけど、あの日重なった思いは幻かと疑いました...」遠回しな言い方に変えたところで、先に口に出してしまってるのだから素直に寂しいといえばいいのにと、気分は下がってしまった。
そんな時朝陽さんの声が聞こえた。
「連絡が遅くなってすいませんでした。俺も、あの時の事は夢だったんじゃないかと思うくらい幸せでした。幻にされてしまう前に会いに来てよかった…」
その言葉に頬が一気に熱を持って、見られたくないと外の景色をみた。
「食事はもう済んでますか?簡単なものを買ってきたので、まだなら一緒に食べませんか?」
その言葉にハッとして、自分が何も持たず携帯だけで乗り込んだことを思い出して青ざめた。
「あの、私...携帯しか持たずに出てしまってて...」
と、信号で車を停めた朝陽さんに自分の携帯を見せたら、笑われた。
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