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第4話
それもこれも鬱陶しいほどのバイタリティでまとわりついてくる、奏衣の体を狙う後輩のせいだ。絆された訳ではない。歩く天然お祭り男は、常に奏衣もろともイベントだなんだと周囲を巻き込んでいった。
結果、それまで静観し無関係だった事項に、ことごとく足を突っ込む羽目になった。
体育祭では泊まり込みで準備して、リレーで皐月にバトンを渡し、応援団もやらされて、後夜祭まで盛り上がる始末。文化祭も同様。クラス対抗スポーツデーの為にテニス部だった皐月にしごかれ、もちろん皐月と同じグループにされた修学旅行もわりと楽しんでしまった。
もともと人と一歩離れた距離感を持つ奏衣を、不屈の精神で皐月は絶対に放っておかない。
「奏衣先輩、度胸あるよね。なんでもできるし、誰とでもやってける。こんな田舎からひとりで海外行っちゃうくらいだもんね」
いやいやおまえが巻き込むからだろ…と思いながらも、皐月が言う通り今まで接点がないと思っていたこともやってみれば意外とできたし、馴染めた。海外でこなしたことを考えれば、大抵の壁は随分低くなっていた。
受験勉強も時間が限られている分ずっと集中力を維持できて、希望通りの大学に受かった。皐月はよく高校から受かったなと思うほどの成績だったけれど、奏衣にへばりついて勉強するうち驚くほど成績が伸びた。
塾通いをしていない皐月は、奏衣の塾終わりに合わせてほぼ毎回迎えに来ていた。
『外で勉強してたら、塾の人が暗いから自習室でやれって入れてくれた』と無邪気に言って、それからはちゃっかり自習室で勉強しながら待っていた。時々職員と喋っていたりと自由気ままに。皐月にはどこか人に『しょうがないなぁ』と思わせてしまう愛嬌がある。
そんな風に迎えに来ても本屋やコンビニに寄り道するのは時々で、とりとめないことをぼそぼそ喋って、奏衣の家が近くなると『またね、奏衣先輩』と手を振って帰っていく。いや、数回は暗がりに連れ込まれてキスくらいはされた気がする。
皐月がデートと称して喜んでついて来るのは、公立図書館か公開模試くらいだった。
そんなわけでこの一年、奏衣の学園生活は勝手に充実されたものにされ、勝手に恋愛ごっこにつき合わされ、勉強にも忙しく、意識が変わっていくことを考える暇もなかった。
「おまえ、結局大学どうしたの?」
皐月は地元の国立大学と東京の私立に合格し、地元に残れと言う両親を説得中とは聞いていた。
「今聞く?奏衣先輩、ほんと俺のことに興味ないよね。やーっと聞いてくれたし。今日もう卒業式なんだけど」
「いや、どうすんのかなとは思ってたけど…」
東京の大学に行きたいのは特にやりたいことがあるからではなく、奏衣が行くからだと皐月が零したことがある。
田舎の男子校で期間限定の恋愛ごっこ。ゲイが珍しいから男を試してみたいという興味本位で、脅迫まがいに始まったつきあいだ。だから奏衣には話の続きが聞けなくなった。雰囲気に流されるようなことを言われては堪らない。
「奏衣先輩さ、俺に付きまとわれるから仕方なくって体裁壊したくないんでしょ?じゃあ今日も仕方なく流されとけば」
「そうだよ、仕方なくだよ。あんたゲイでしょ?つきあってって会っていきなり言われて、あ、こいつただ男に興味があるんだなって思うだろ?」
「奏衣先輩、今もそう思ってる?」
ーー 今もそう思ってる?俺は皐月のこと、どう思ってる?
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