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第7話

「あの時の綺麗な顔見せてくれるなら、なんだってする。いや、それ以上の顔が見たい、って思ってたけど、どうやったって見れなかった。奏衣先輩とのキスは嬉しいのに、苦しかった」 「おまえが勝手にしてただけじゃん」 「じゃあ、俺に許してくれてるのは何?キスどころか今日ヤらせてくれるのってなんで?」 「どうでもいいから」  口から溢れるのは残酷な言葉ばかりだった。綺麗に塗り固められた気持ちを傷つけてやりたかった。彷徨いそうになる視線を無理に合わせる。 「奏衣先輩、好きだよ。俺のことも好きになってくれる?ちゃんとそう言えばよかった?」 「今更ごちゃごちゃ言うなよ。もう一年終わったんだよ。俺たち今日卒業すんの。さっさとヤろうぜ」  すぐ近くにいた皐月が離れていくと、急に体の温度が下がった気がした。 「なんかもう、萎えた。最低なのは俺だよ。先輩、卒業おめでとう」  背向けこちらも見ずに手を振る。最後の言葉とスカート姿がちぐはぐで、なんだかシュールな光景だった。  これで終わり。今日が最後になるかもしれないと思いながら、どこか現実味なんてなかったのに。突然告白されて、瞬間でフラれた気分。 「そんな格好で本気で卒業式に出るつもり?着替えてけよ。まさかそれで電車乗って来たんじゃないんだろ?」  皐月が立ち止まったことにほっとしている自分を認めたくなかった。振り返った皐月はまだ、気持ちを煮詰めたような表情をしていた。 「ううん」 「はっ?!」 「これで家から来た」 「馬鹿かおまえは!」 「馬鹿でいい。誰にもう何言われても平気。それより奏衣先輩に俺を見て欲しい」 ーー それは諦めさせるためで…だから、だから何?こいつがそう言えばスカートくらい履いてくるってどっかで思ってなかったか?そこまでやるなら仕方ないなって、俺…こいつとヤってもいいって…なんで? 「待って、話ぐるぐる回って混乱してる」 「待てない。卒業したら、このままもう勝手に終わる。そうじゃなくて、奏衣先輩、自分で決めて」  大きな目がキラキラ光って、奏衣を睨んでいる。 「なんで俺が!おまえ何なんだよ、今更!」

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