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第2話

今日の蛍斗はすごく機嫌が良かった。 「年度末が近づいてきて忙しいだろうに、やけに機嫌がいいな。何かあったの?」 俺の問に、ニコニコしながら待ってましたといったように切りだす蛍斗。 「へへへ・・・実はね、入社三年目、ついに俺に部下ができたんだよ~~~~~~!!! 教育係として、新人を一人任されたんだ!すごく責任感じるけど、嬉しいんだよね。」 「すごいじゃん!新人教育なんて、大変じゃないか? 新入社員は俺のとこには配属されないからな。どんな子なの?」 「うまく指導できるか分からないし、ササには新年にちょこっと会えただけだったから、 言いそびれてたんだよね。そういえば、営業で採用されてるから、そのうちササと同じ課に配属されるハズだよ!10月採用だから、まだ任されて3カ月しか経ってないんだけど、すごく飲み込みが早くて優秀なんだよ。俺なんかあっという間に抜かされそう!ふふふ・・それにね、すごく格好良くて、女子社員からも人気なんだ。よく告白されてるらしくてね、ヨッシーなんか、すごい悔しがってんの!」 やっと言えたー、とふにゃっと笑う蛍斗。 ヨッシーこと、吉岡 要(よしおか かなめ)は俺達と同期の自称モテ男。 ちょっとバカだけど、素直で憎めないヤツだ。 それに、かなりの女好き・・蛍斗の傍に置いておいても安心なヤツだ。 「吉岡は相変わらずだな。女の園の経理は、自己希望だろ? 女好きもあそこまでオープンだと清々しいよな。」 新入社員の事を自分の事のように自慢げに話す蛍斗。 昔からこいつは人が好きで・・でも、その綺麗過ぎる外見のせいで大変な目にもたくさん合ってきている。俺だったらとっくにひねくれてるかな・・・・ どんな逆境にあっても、蛍斗は真っ直ぐだ。 でも、恋愛面はかなり慎重だ。未だ蛍斗に恋人が出来たところを見た事がない。 もう26にもなる男に・・・だ。 俺は蛍斗が好きだけど、この関係が終わるのが怖くて何もアクションを起こせないまま27歳になった。 それまで純潔ってワケはもちろん無くて、適当に女と付き合っては別かれている。 蛍斗に恋人ができたら、俺はどうなるんだろう。 今までみたいに、ここに来てくれるのか? 他の誰かを思う蛍斗を見て平然としていられるのか? こたつを挟んで向かい合って座る俺達。 新しいカシスオレンジの缶に手を伸ばした蛍斗が取り損ねて、缶がお互いの中間に転がる。 拾ってやろうと手を伸ばすと、同じように拾おうとした蛍斗の手の上に俺の手が重なった。 抜けるように白く、美しく長い指、俺より少し小さいその手を包んでしばし沈黙。 「ササ?」 「あ、ワリ、ぼ~っとしてた・・・」 「あは、も~酔ったの?営業の酒豪エースササって言われて、有名なのにー」 クスクスと笑う蛍斗。 印象的な、大きな二重、 笑うとそのアーモンド型の瞳が細められてとても綺麗だ。 「ササ、疲れてるのかな?もう寝ようか?」 見惚れているなんて知られるワケにはいかなくて・・ 何でもないように手を引っ込めながら、 「目~冷めてきた!全然いけるぜ!さ、まだ話したりないんだろ、もっと話そうぜ!」 「無理しないでよ~? ササは、最近どうなの?」 それからは、お互いいつもの近況報告と上司の愚痴で盛り上がって、布団に入ったのは2時を過ぎていた。 何人もの女を抱いてきたのに、手を握っただけでドキドキするのは蛍斗だけなんだ。 本当に、このままでいいんだろうか。 蛍斗にドキリとする度に、心の何処かでそう考えてしまう俺がいる。

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