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第4話

伊藤先輩に背中を押されて入った経理課は、想像以上に女だらけだった。 ざっと見た感じ、課には四十人位の人がいて、 男は課長と伊藤先輩、それに目の前の島にもう一人。 女性社員達が俺をみて騒いでいる。 まぁ、いつものことだけど。 「柊君、さっそくで悪いが、自己紹介してくれるか?」 挨拶もソコソコに課長に誘導されて、俺は前に出て話し始めた。 「今日から経理課に配属されました、柊 碧生です。アメリカの方に語学留学しておりまして、後期採用となりました。ご迷惑をおかけするかもしれませんが、精一杯頑張りますので、ご指導の程よろしくお願いいたします。」 ま、こんなもんかな・・? 「背、高いよねー」 「格好いい・・・」 ざわつく課内。 爽やかな笑顔をふりまいておく。 年上の女には、まずは愛嬌だ。 可愛がられて損はない。 「おいおい、皆、柊君がイケメンだからって浮つくなよー!はははは! しっかりフォローしてやるように!」 課長の合図を待って伊藤先輩が寄ってきた。 「さぁ柊君、席に案内するよ。」 先輩の後について歩いていると、課にいたもう一人の男に話し掛けられた。 「よお、柊君、初日からすげーじゃん。俺は吉岡 要(よしおか かなめ) よろしくな。ま、仕事も顔と同じくらい目立てたらいいけどな。ふっ。」 「こら、ヨッシー、何でそんな事言うの!もー、ちゃんと仕事して! ごめんね、柊君、君があんまり格好イイから嫉妬しちゃって ふふ。」 伊藤先輩に怒られる吉岡。 先輩は口に手を当てて小さく笑っている。 少し見下ろした先にある先輩の顔、伏せた瞳を見ていると、 長い睫毛から目が離せなくなる。 「ちょ、伊藤!  ちげーよ!チッ・・!」 「こら吉岡君~!見苦しいぞ~」 同じ島の女子社員に野次を飛ばされて、しょぼんとして席に着く吉岡。 こいつは先輩って呼ぶ価値はないな・・・。 茶髪で少し長めの髪、社会人としてこの髪型は・・・どうなんだろ。 顔は大き目の一重まぶたに高い鼻、決して悪くはないけど。 俺の足元にも及ばない。 「よろしくお願いしますね、吉岡センパイッ」 少し首を傾げて、最高のスマイルを返してやる。 周りの女子社員は俺の笑顔に釘付け、吉岡は怒りで俺に釘付け。 やべっ ちょっとバカにしてんの伝わったかな・・ ま、いいか。 俺は男には無駄な演技はしない主義だ。 そんなやり取りをして吉岡の席を通り過ぎ、俺が配属された係に案内された。 島は、三人づつの一列が向かい合って出来ている。 俺の列は、課長側から、女性の佐久間係長、伊藤先輩、俺の順だ。 席に座ると、デスクには目線の位置に書類が整然と並べられた低めのスチール棚が設置されているため、目の前に座る社員のノートパソコンと胸元までは見えるが、お互いの顔は見えない造りになっていた。 これは、なかなかいいな。作業するなら少し閉鎖的な方が好きだ。 筆記用具を片付けながら、左隣の伊藤先輩を横目に見る。 ちょっと、これは予想外だった。こんなに綺麗な男がいるなんて・・・ どうせ俺以上にカッコいいヤツなんて居ないだろって高をくくっていたけれど、 強力なライバルだな。 ま、系統が違うから関係ないかな? 伊藤先輩は、決して女顔というワケではない。 かといって男らしいワケでもないんだけど・・・ 繊細な美形。うん。 こりゃモテモテだろうな・・・ 一緒に合コンとかしたら、女が相当集まりそう。 そんな事を考えていると、ついついガン見してしまっていた俺。 その視線に気づいた伊藤先輩がパッと俺の方に顔を向けた。 「あ、片付いた?」 「・・っ、はい!」 「今日は午前中は社内を案内して、午後から引き継ぎに入る予定だよ。 さっそく、行こうか。」 ニッコリとほほ笑まれて、吸い寄せられそうな綺麗な形の唇が弧を描く。 あ、俺、どこ見てんだよ。 何なんだこの人・・・・ 伊藤先輩は何も悪くないのに、勝手に変な気持ちになって、 俺はそんな自分に少しイライラしてしまった。

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