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第12話

ーー side 伊藤 蛍斗 ーー 温かくて気持ちいい。 フワフワと定まらない意識の中で、温もりのある方に自然と擦り寄る。 包み込まれる心地よさ・・・・・ ・・・包み込まれる・・・・・? ・・・なんで・・・・? ぼんやりした意識の中で感じた温かい違和感に、一気に意識が浮上して目が覚めた。 パチリと瞼を開けると目の前には首があってーー ・・・首・・・? 首筋を辿って視線をあげると、視界に飛び込んできたのは柊君の気持ちのよさそうな寝顔だった。 スースー・・・ その寝顔は、いつもセットされている髪がペタンとしていて少しだけ幼く見えた。 あっ、そうだった、昨日泊まってもらって・・・ !!!!! 俺も昨日はそれなりに飲んでいて・・・ 意識がはっきりして、昨日あった事を思い出した俺は慌てて柊君の腕から抜け出した。 起き上がって自分が裸な事に気がついて、横を見下ろすと柊君は上半身裸でーー 鍛えられた腹筋が視界に入って、昨日の事を思い出して顔が熱くなった。 とにかく冷静にならなくちゃと、俺は着替えを持って浴室に飛び込んだ。 サァァーーー・・・・ 熱いシャワーを浴びながら昨日の事を考える。 柊君はどうしてあんな事をしたんだろう。 抵抗しない俺に苛立っていた柊君。 あまり考えたくないけど、俺は嫌われているのかな・・・ 初めての後輩で、懐いてくれていると思っていた柊君にムカつくと言われて・・ 今思い出しても胸が痛くて。 知らず知らずのうちに、俺が気に障る事をしたんだろうか。 それに、柊君は俺が抵抗しないと怒っていたけれど、 俺は抵抗しなかったんじゃない、できなかったんだ・・・・。 思い出したくは無いけれど、小学生の時の記憶が蘇ってきた。 ・ ・ ・ あの日ーーーー 放課後、ササの家に行くために大通りにある歩道を走っていた俺の横に、白いセダンが停車した。 気にせずに走っていると、後ろから俺を呼び止める声がして。 「ちょっと!!!そこの君〜!」 歩道には俺しか居なかったから自然と振り返ると、眉を下げて困ったような顔をした若い男が車の窓から顔を出していた。 「君、萱野小学校の生徒かい?お兄さん、小学校に用事があるんだけど、迷子になっちゃって・・!道、案内してくれない?」 心底困ったという表情に、何の疑いもなく俺は答えた。 「いいですよ!すぐ裏手の道を少し行ったところなんで!俺走っていくんで、着いてきてくれますか?」 「わ!助かるな〜!!じゃ、お願い!」 後ろから車が着いてきているのを確認しながら思いっきり走る。 その時は、純粋に自分が大人の役に立っている事が嬉しかった。 「は・・ハァ・・・つ、着きました!!」 体育館の裏手に着いて、お兄さんにこのまま真っ直ぐ進めば校門だと伝えた。 路肩に車を寄せて、中から出てきたお兄さんに別れを告げようとすると・・ 「ありがと!すごく助かった! でも、俺が用事があるのは、そこにある倉庫なんだよ。 ん~思ったより倉庫が高いな・・・ちょっと、手伝ってくれない?」 「・・・・?何を手伝えばいいんですか?」 そういって二人で体育館裏にある倉庫に近付く。 体育館裏は、細い通路を覆うように木々が茂っていて、あまり近寄る人が居ないからとても静かだった。 「俺はね、この倉庫を買う予定なんだよ。 で、倉庫の壁2mの高さにぐるりと線を引かないといけないんだ。 俺が君を肩車するから、このナイフで線を付けてくれないかい?」 ニコリ、と笑ってナイフを差し出してくるお兄さん。 俺は、この時始めてこれはおかしいと気がついた。 子供でも分かる異常なお願い。差し出されたナイフと、目が全く笑っていない笑顔。 ゾッとして、一歩、後ずさる。 「あれ?どうしたの?さあ手伝ってよ・・・・・・」 「あ、ごめん、なさ・・・・俺友達と約束があるから・・もう行かなきゃ・・・・!」 そう言ってクルリと踵を返して校庭の方に走ろうとした時。 グッ!!!!! 「グッ・・・カハッ・・・」 ドスン!! 瞬間、首にものすごい衝撃。一瞬目の前が白くなる・・・ パーカーのフードが容赦なく引っ張られ、思い切り尻もちをついた。 「どうしたの、急に走って。お願いは最後まで聞いてくれなくちゃね・・・。」 そう言ってニッコリとほほ笑んだかと思うと、 お兄さんは俺を押し倒して逃げられないように腰に跨ってきた。 「遠くからでも分かったよ・・・君さ、すごく綺麗な顔してるね。 そんな顔してるんだもの。こういう事も、しかたがないんだよ・・・・。 静かにしててくれたら、痛いことしないから・・・ね?」 少し我慢して・・・そう言いながら左手で俺のパーカーのチャックを開くお兄さんの右手にはナイフがあって・・・・・ 俺は、あまりの恐怖に声も出なかった。

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