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第14話

パタン・・・・ 浴室を出てキッチンに向かう。 部屋はシンとしていて、柊君が起きた気配はまだなかった。 ふと時計を見るともう10時を回っていた。 柊君、昨日はかなり飲んでたし・・・軽い物なら何か食べれるかな? 冷蔵庫を覗きながら、食材を眺めてぼんやりと考える。 さっぱりした物がいいよな~・・・ 梅干しと・・あ!糸昆布がある・・・よし、決めた! 冷凍ご飯を出して、小さな鍋で二人分をコトコト煮始めた時、後ろから物音がしてーー 柊君が起きてきたんだ・・・ 「柊君、おはよ~!」 ガチャリとドアが空いた瞬間、なるべく平静を装って挨拶すると、 毛布にくるまった柊君がモジモジしながら視線を彷徨わせていた。 暖房が効いているとはいえ、1月の室内はまだ寒い。 上半身裸の柊君が毛布を被っているのも仕方ないんだけど・・・ 「・・・・・・・せ・・・先輩・・・・・・・・」 いつもはキリッとした男前なのに、セットされてない髪の柊君はまだ学生のようで、 大きな体で毛布にくるまっている姿がすごく可愛い。 あんな事があったのに、妙におどおどした柊君を見ていると、構えていた気持ちがいつの間にか溶けていた。 「ふふっ・・・どうしたの?まだ気分が悪いの?」 「怒って、無いんですか・・・・?」 今の柊君を見ていると、俺の事を嫌ってあんな事をしたとは思えなくて。 「怒ってないよ。柊君酔ってたし・・俺が社の女の子泣かせるなって言ったから、仕方なく・・・でしょ?」 そう言うと柊君は少し驚いた顔をして、こちらにゆっくりと近寄ってきた。 「伊藤先輩、俺、誰かの代りにあんな事しないです。 先輩がすごく綺麗だったから・・その、うまく言えないんですけど・・・ 無意識に・・・・」 そう話す柊君の顏はとても悲しそうで。 ーーーそんな顔してるんだもの。こういう事も、しかたがないんだよーーー 俺の顔、やっぱり人を変にさせちゃうのかな? 柊君、こんなに辛そうにして・・・きっと俺のせいなんだよ・・・。 俺は気にしてないからと伝えようと、一歩踏み出した瞬間柊君に抱きしめられた。 バサリと音を立てて毛布が二人の足元に落ちる。 上半身裸の柊君にふわりと抱きしめられて・・・ 昨日と違って、それはすごく優しい触れ方で。 柊君の香りに包まれると、昨日の事が蘇って一気に顔に熱が集まった。 鼓動もすごく早くて・・・俺、どうしちゃったんだ・・すごくドキドキしてる。 「あの・・・さっきのって、先輩は社の子泣かせないためだったら、俺がああいう事を先輩にしても良いって意味ですよね・・?」 「え・・・・?良いって・・・何が・・んっ、」     ぺロッ・・・・・・チュッ・・・チュク・・・・ 「ふ・・・あっ・・・」 唇を優しく舐められて、思わず声が出てしまう。 啄ばむような優しいキス。 俺、男なのに・・・こんな声出して・・・ 恥ずかしくていたたまれなくなって、柊君の胸を必死に押すけれど、押すとその分また抱きこまれて・・・ 舌がゆっくりと入ってくる。 丁寧に、まるで俺の中を味わうようにゆっくりと動かされると、ゾクゾクしてーーー 下半身に熱が集まるのを感じた。 昨日とは違って強引さは無いのに、何故か離れられない俺がいて・・・ 後輩のキスで感じて勃つ・・なんて・・・恥ずかしさと頭が痺れるような気持ちよさにクラクラする。 「ふっ・・・は・・・ヤバい・・・先輩、何でそんな顔するんですか。 ・・・・俺、全部もらっちゃいそうです・・・」 「っえ・・・全部・・・・・?」 意味が分からなくて首を傾げると、 「それ、その顔!やめてください。止まらなくなる・・・」 「どんな顔なの・・・・・・」 「せっ先輩~~~~~~!!!!」 そう言ってまたふわりと抱きしめられた。 「もー分からないなら良いです!けど、俺先輩がかまってくれないと社の子泣かせちゃいますよ?それ、くれぐれも忘れないでくださいね!!」 そう言って、俺を抱きしめたまま少し見下ろす視線で不敵にニヤリと笑う柊君はいつも通りの柊君で。 良かった、やっぱり嫌われてなかった、なんて安心して、俺も微笑み返した。 「も~!!!!!!!また!」 そう言って首筋にグリグリと頭を擦りつける柊君はなんだか子どもみたいで可愛い。 髪や柊君の息が当たってくすぐったくて・・・ 逃げるように体を捩ってもまた捕まえられて。なんだか楽しくなって二人で笑い合った。 しばらくじゃれていると、突然柊君の動きが止まって、 俺の肩から顔を上げると、ひょこっとキッチンの方を覗き込んだ。 「・・・?どうしたの??」 「そういえば・・先輩何か作ってました・・・?その鍋・・・・。」 「あ!そうだった!!お粥だったら食べれるかなと思って作ったんだけど・・どうかな?」 期待一杯の目で鍋を覗いていた柊君は、パッと目を開いて、すごく嬉しそうな顔をしてくれた。 「すぐ用意するから、テレビの前、座っててね。」 「手伝う事無いですか?」 「う~~~ん、何か服着てきて。」 「あ!俺裸でしたね。了解です。」 そう言ってバタバタと寝室に消えて行った柊君はピチピチのスウェットを着て出てきた。 「あれ?それ、俺の・・・あ、下に履いて寝てたのも俺のだったの?だから俺裸で寝てたんだ!?あはは!でも、どうして?渡した大きいやつは・・?」 「伊藤先輩が、佐々先輩の為に用意した服なんか着たくないです!」 子どもみたいにそっぽを向いて、何だか良く分からないワガママを言う柊君は可愛くて。 ヨッシーの前で見せる黒い笑顔とはまた違う、幼い一面を見せてくれる事がなんだか嬉しかった。 「じゃあ、今度柊君専用のを買っておくね。」 「え・・・?また、来てもいいんですか・・・?」 「・・・・・?いいよ?俺の家会社から近いし、困ったらおいで。」 「先輩・・・分かってないですよね・・・あ~俺、先輩の事が心配になってきました!」 「も~なんだよ~ ふふ。  はい。お粥できたよ、食べよう。」 コトリとソファーの前のローテーブルにお粥とお茶を置く。 二人並んでソファーを背もたれにしていただきますをして・・・・・・ ガツガツと食べ始めたかと思うと、急に箸を止めて俺の方を向く柊君。 「!!!!!せ・・先輩!!!すげーうまい!何が入ってるんですか!?」 「わ!良かった~!!!実は、醤油にこだわりがあるのです!俺特製のだし醤油だよ。エッヘン!」 気づいてくれたのと、オーバーなリアクションが嬉しくて俺も得意になる。 「もー!!!かわいいーーー!」 俺の反応を見て、また優しく抱きしめられてーーー 可愛いって・・・何が可愛いの・・・・・ 全然分からないけれど、柊君からの好意は純粋に嬉しかった。

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