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第15話
ーー side 佐々 健太 ーー
金曜日の夜、二人の後ろ姿を見送って、俺はひどく不安になった。
柊は、おそらくだけど蛍斗を意識していると思う。
あの視線・・・・・俺がそうだから、なんとなく分かってしまったんだ・・
だけど、こんな何の証拠も無い事を蛍斗に言ったって軽くあしらわれるだけだし、何より蛍斗がすごく可愛がっている後輩だ。万が一俺の勘違いだったとしたら取り返しがつかない事になる。
あの後、悶々とした気持ちで3次会まで部長のお伴をしてーー
俺は、ほとんど眠れないまま朝を迎えた。
携帯の画面を見つめて何度もメールが来ていないかチェックして。
俺、何やってんだろう。
今週は会う約束もしていないんだから、連絡なんて無くて当たり前で。
まだ、あいつと二人で居るんだろうか・・・
知りたい、けれど自分からは何て連絡していいか分からなくて・・。
今まで他人とはどこか距離があった蛍斗。
初めて家に呼ぶほど親しいヤツが出来て、しかもそいつが蛍斗に好意を寄せているかもしれないと思うだけで、こんなに気持ちが動揺するなんて・・・
俺は、幼馴染という関係を保つために今まで必死に頑張ってきたつもりだったけれど、それは蛍斗が誰のものにもならない事が前提だったんだって思い知らされた。
やっぱり、二人きりになんてさせたくない。
居ても立ってもいられなくて、俺は蛍斗の家に向かう事にした。
俺と蛍斗の家はバイクで20分程。
この時間がこんなに長く感じるのは初めてだった。
ピンポーン・・・・
ガチャーーーー
「ササーーー!どうしたの!あ、バイクで来たの?寒かったでしょう?早く入って。」
黒の上下スウェットで出迎えてくれる蛍斗。
少し細身で形の良いスウェットは、普段蛍斗が部屋着にしている物だ。
今日は、まだどこにも出掛けてないんだな。
玄関を見ると、蛍斗の靴しかなかった。
「蛍斗、柊君は・・・?」
「あ・・・柊君なら昼前に帰ったよ。もしかして、会いに来たの?」
「あ・・いや・・あの後どうなったかなって、ちょっと心配で・・・」
「ふふ。ササは優しいね。柊君、結構酔ってたみたいだけど・・・
朝ごはんもしっかり食べて帰ったから大丈夫だよ。」
幼馴染の俺だから分かる位の些細な違和感。
柊の話しをする蛍斗は、ほんの少しだけど様子がおかしくて。
「ほら、入って。せっかくだから一緒に映画見ようよ。借りてたやつがあるんだ~。」
そう言ってリビングに向かう蛍斗、その首筋にうっ血した赤黒い痕が見えてーー
頭が真っ白になって、俺は無意識に蛍斗の手を強く掴んで引き戻した。
「わ!何ッ・・・!?」
「蛍斗、首のこの怪我・・・・どうしたんだよ。昨日までそんなの無かった!」
「・・・・・ッ・・・・・」
右手で腕を引いて、俺の方によろけた蛍斗の肩を左手で押さえ込んで問い出すと、
蛍斗は真っ赤になって俯いた。
沈黙の中、握った手が少し震えている事に気が付いて・・・嫌な予感がする。
まさかーーー
「乱暴、されたのか・・・?」
「ちが・・・っ・・・・ 柊君のせいじゃなくて・・・俺のせいなんだ」
「蛍斗が、誘ったのか・・・?」
「誘う・・・?」
「っ・・・・だからっ・・それ、キスマークじゃないのかよ!」
蛍斗の肩をぐっと引き寄せて首筋を見る。
良く見ると、転々と歯形の後があって・・
「なんで、こんなひどい痕・・・・あいつ、許せねえ・・・」
「違う、俺が悪いんだ!」
必死に柊君をかばう蛍斗にイラ立ちがつのる。
「蛍斗!!!お前、昔暴漢にあった時だって自分のせいだって言ってたよな!!そんな傷付けられて、お前のせいなんて事ないんだよ!!!!」
思わず大きな声が出てしまって、抑え込んだ肩がビクリと揺れた。
怖がらせたいワケじゃないのに・・・
そのまま肩を引き寄せて、強く抱きしめる。
俺の、宝物のような蛍斗が奪われてしまう。
そう思うと歯止めが効かなくて。
俺には幼馴染のままなんて無理だったんだと気付かされた。
「くそっ・・・・・もっと早く気づいてれば・・!!」
「・・っ・何・・・・・!?」
蛍斗の手を少し乱暴に引いて寝室に入る。
そのまま無言で歩いて、蛍斗の肩を押してベッドに押し付けた。
ドサッーーーー
蛍斗が俺に組み敷かれている。
俺が、こんな風に蛍斗を見下ろす・・・・一体何回この想像をしたんだろう。
ただ、想像と違ったのは、蛍斗がひどく怯えていた事だったーーーーー。
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