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第16話

はっ・・・・はぁ・・・・っ・・・・・ カタカタと震えて浅い息を繰り返す蛍斗。 あんな事をした柊の事は庇っていたのに、俺の時はそんなに怯えるのかよ! そう思うと、ついカッとなって声を荒げてしまった。 「・・・っあいつは良くて、俺はダメなのかよ!!!!」 ビクンと震える蛍斗の目からは涙がこぼれて・・・ 俺にこうされるのがそんなに嫌だなんて・・・ そりゃあ、ずっと友達だったわけだし、男に抑え込まれて気分いいワケないのは分かるけど・・ 一つため息をついて、蛍斗を開放しようとした時ーー 「ちが、ちがう・・・」 「いいんだ蛍斗、俺が悪かったよ。友達に、いきなりこんな事されたら嫌だよな・・」 「ササッ、・・そうじゃ、なくて・・俺、俺は・・・」 震えながらも必死に否定する蛍斗を見て、俺はふと昔あった事を思い出した。 「もしかして・・・蛍斗、お前・・・昔襲われた後大人の男が怖いとかって言ってたけど、今も・・」 昔、蛍斗は暴漢に襲われた事がある。 その日は、いつも約束の時間に遅れない蛍斗が珍しく1時間以上も遅れていて、なんだか嫌な予感がして探していると、体育館の裏から声がして・・・ こんなトコいつも誰もいないのにって思いながら覗くと、大人の男とその前に屈みこんで何かを吐き出す蛍斗が居て・・・ 何か分からず見ていると、次の瞬間蛍斗が押し倒されて男が振りかぶった手にはナイフがあって・・蛍斗が死ぬかもしれない。一瞬頭が真っ白になりかかったけど、なんとか俺は大声で先生を呼ぶフリをした。 近寄った蛍斗は精液と血液でドロドロになっていて・・・ 幸い傷は深くはなかったけれど、真っ青な顔をして謝る蛍斗を見て涙が出た。 それまでだって、ここまでひどい事はなかったけれど似たような事は時々あったんだ。 素直で、綺麗で、人を信じて人に傷つけられて・・・・ 傍に居なかった俺のせいだって、当時は酷く自分を責めた。 そこから俺は、ずっと傍にいて蛍斗を守っていこうと心に決めた。 初めは純粋にそう思っていた・・・ けれど、いつからか愛してしまった蛍斗と離れないための言い訳にしていたのも事実で。 それを、蛍斗は10年以上が過ぎてもまだ心の傷としてずっと抱えていたんだ・・・・ 「ササ・・・が、嫌とか怖いとかじゃ・・・」 「分かった、わかったから、蛍斗・・ごめんな」 はーっと長いため息を吐いて、蛍斗の上から下りて隣に横たわる。 自分の考えの無さに腹が立った。 俺が離れると、蛍斗もゆっくりとこちらを向いて・・・ ベッドの上、横になって見つめ合う。 蛍斗の涙ももう止まっていて。 蛍斗は瞳を閉じて深呼吸した後、ゆっくりと話し始めた。 「ササ、ごめん・・・・俺、もう大丈夫だと思ってた。正直、あんな事があったコト忘れてる日の方が多くて。でも、急に抑えつけられたら、目の前が白くなって・・・・自分でも分からないんだけど、体が思い通りに動かなかったんだ・・・。」 「ごめん、なんて・・・蛍斗、お前が謝る事じゃないんだ。いつでも、お前は悪くないよ。」 「ササは、怪我の事心配してくれたのに、怖がるような真似して・・俺っ」 蛍斗が怯えないように、ゆっくりと手を伸ばして頬にそっと触れる。 その、綺麗な顔をじっと見つめて・・・・ 「なあ、今は怖くないか・・?」 「うん、もう大丈夫。ササだって、ちゃんと分かってる。」 そう言って、俺の手にそっと手を重ねてくる蛍斗。 綺麗なアーモンド形の瞳にゆらゆらと涙が浮かび始める。 「そっち、行ってもいいか・・・・?」 「うん。」 そっと距離を詰めて、蛍斗の細い腰に手を回して、優しく引き寄せて抱きかかえると、ちょうど俺の胸に蛍斗の頭がピッタリと埋まっていて・・・ 「怖くないか?」 「大丈夫。心臓の音、なんか安心する・・・。」 蛍斗のやわらかい髪に顔を寄せ、ため息をついた。 蛍斗は俺が怪我の心配をしてあんな事をしたと思っていて、今もきっとこの行動の意味を履き違えているんだろう。 いつもの俺なら、蛍斗の勘違いに乗って誤魔化していたに違いない。 けれど、俺はもう後戻りしたくない。 柊が現れて・・ これから先、友達としてこのままの関係が続く事が耐えられなくなっていた。 俺は、やっぱり蛍斗が欲しい。 「はーーーーーっ・・・・今まで、俺・・本当に蛍斗の事を心配して、幼馴染として傍にいたよ。」 「うん・・・・本当に、感謝してるよ・・・」 「俺達、お互いの事はほとんど知ってる、よな?」 「うん」 「一つだけ、お前に必死に隠してきた事があるんだ。」 「・・・え・・・・・?」 「俺は、お前の事が好きなんだよ。お前を、愛してるんだ・・・・。」 ピクリと蛍斗の頭が動いて、俺を見上げる。 その瞳は戸惑いの色を浮かべていて。 「ササ、それって・・・・・」 「こういう事だよ・・・」 両手で蛍斗の顔を包み込み、やさしく触れるだけのキスをした。 一瞬、蛍斗の目が大きく開いて・・・色の白い綺麗な肌は、みるみる内に真っ赤になった。 「ササ・・え・・・俺・・・・」 「蛍斗、愛してるよ・・。これからもずっと傍にいたい・・・。急がないから、俺の事、考えてみて。」 「ササ・・・。」 「はーやっと言えた・・・長かったな・・・・・なんか、安心したら眠くなってきた・・・」 昨日は心配で殆ど眠れてなくて・・・ 胸のつかえが取れて、こうして腕の中蛍斗を抱きしめているととても心地が良くて・・・・蛍斗をしっかりと抱きしめたまま、俺は眠りについてしまった。

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