20 / 32
第20話
ーーside 佐々 健太 ーー
蛍斗と柊は同じ課で働いている。
それが後数カ月とはいえ油断は禁物だ。
蛍斗への思いに迷いが無くなった今、
俺は、俺の全てをかけて蛍斗を落としにかかることにした。
今までの付き合いの長さを最大限に利用させてもらうぜ。
今日蛍斗の家に行く約束を取り付けた俺は、
急いで仕事を切り上げて蛍斗の好きな酒とつまみを買って部屋を訪ねた。
ピンポーン・・・・そこに蛍斗はまだいなくてーーー出てきたのは柊だった。
ガチャ
「・・ハァ・・佐々先輩・・・・お疲れ様です。」
「よ、柊、お疲れ。今日はよく来てくれたな。嬉しいよ。」
「あ、ドーモ。俺も佐々先輩と仕事が終わってまで会えてコウエイです」
無愛想な顔に、相変わらずの生意気な口調。
蛍斗が居る時とは大違いだ・・・・。
リビングに入って、ソファーの端と端に座る俺達。
「まあ、そんな挨拶はいいか・・・蛍斗は?」
「用があるから先に帰ってほしいって、俺に合鍵渡してくれました。」
そっぽを向いて、少し唇を尖らせて話す柊。
見た目の大人っぽさとは違う、幼い一面を垣間見る。
ふ・・まだまだガキだな。
「ふーん・・・なぁ、ぶっちゃけて、お前蛍斗のこと好きだろ。」
「え!?は・・・・・・尊敬は、してますけど・・・」
俺に問われてキョトキョトと視線を彷徨わせる柊。
こいつ、遊びなれてそうなのに、何でこんなぎこちねーんだ?
男同士に抵抗があるのか・・・?
俺は、まどろっこしいのは嫌いだ。
「お前が気づいてるように、俺も気づいてるぜ。
俺は日曜に蛍斗に告白した。
男として、考えて欲しいって伝えてあるから。
一応、お前にも言っとく。」
「そう、ですか・・・・・」
「お前はどーなの?蛍斗にあんな痕つけて・・・まさか身体だけってわけじゃ、ないよな?」
少し責めるように言う。蛍斗は、そんな一時の欲望で何度も傷つけられてきてるんだ。こいつの瞳は本気だとは思うけれど、蛍斗が軽く扱われているとしたら許せない。
「っ!!違います!!俺・・・本気、だと思いますよ。伊藤先輩のこと。」
「はぁ?だと思う。で、手ーだしたのかよ!?」
「上手く言えないですけど・・・俺、恋愛したことなかったみたいです。」
「お前すごいモテるだろ・・・何言ってるんだ・・・?」
「はぁ・・・だから、来るもの拒まずで・・身体だけの関係ばっかだったんですけど。伊藤先輩は違ったんです。全部、欲しいと思ったのは初めてなんで。・・・・・俺は、まだ告白してないですけど、佐々先輩には負けないですから。」
そう言って俺を睨む柊の瞳は真剣で。
女好きする整った顔、大人っぽいようでいてどこかあどけなくて。
蛍斗が可愛がっているのが少しだけ分かるような気がした。
ピンポーン・・・・
「あ!伊藤先輩だ!」
そう言ってバタバタと玄関に向かう柊の後ろ姿は、飼い主が帰ってきて尻尾を振る犬のようで・・・
クックッ・・・あからさまな態度の違いに、思わず笑みがこみ上げた。
「二人とも!ごめんね遅くなって・・・!」
一月の夕方はとても寒くて、急に温かい室内に入った蛍斗の頬がふわりと赤く色づいた。
綺麗で、可愛い。俺の大好きな蛍斗。
そんな蛍斗の家で、まさか俺意外の男も入れて三人で飲む日が来ようとは・・・
「ちょっと、ちょっと待っててよ・・・柊君は見ちゃったかもだけど!
とにかく、二人ともソファーに座って!」
そう言ってリビングから一度玄関に戻る蛍斗。
すぐに戻って来た蛍斗の手には大きな紙袋が二つ握られていて・・・
用事って、買い物だったのか・・・?
チラリと横を見ると、キラキラした表情で蛍斗を見つめる柊。
なんだ、あいつ。そんな顔もするのかよ・・・
職場では、いつも気取ったような余裕たっぷりの雰囲気の柊。
今は、俺や吉岡・・いや、女子社員にさえも絶対に見せたことの無いであろう、子どもみたいにキラキラした笑顔を見せている。
「じゃじゃ~ん!はい、こっちがササで、こっちが柊君!さっそく、開けてください!」
「ありがとうございます!」
「俺に?サンキュー蛍斗。」
そう言われて包みを開けると、ふわふわと手触りの良いルームウェアが入っていた。
「これは、俺の家に置いとく用だからね。ふふ。二人とも、いつでも遊びにきてください!」
贈り物をする事にちょっと照れている蛍斗は何故か敬語で・・・長い付き合いなのに、そういうところが本当に可愛いと思う。
ほら見ろ。柊なんか、目がハートだ・・・・。
いつでも遊びに来て・・・柊にもってのがちょっとひっかかるけれど、
誰のどんな贈り物より、その気持ちと言葉が嬉しかった。
「せっ先輩~!俺、嬉しいです!ありがとうございます!!!」
そう言って、蛍斗に飛びつく柊、一瞬ビクッとしたものの
さほど戸惑いもなく受け止めた蛍斗は柊の頭をヨシヨシしている。
何でそんな自然に・・・二人の関係はどこまで進んでるんだって、少し不安になる。
「ほら、早く着替えてきて!スーツがシワになっちゃうよ!」
「はい!俺先着替えてきますね。」
嬉しそうに紙袋を抱えた柊が寝室に消えて行った。
「蛍斗。」
「ん?」
少し首をかしげて返事をする蛍斗。
ゆっくりと近づいて、蛍斗の座るラグに膝を落としてふわりと抱きしめた。
「ササ・・・・っ」
赤くなる蛍斗を見ていると、意識してくれてるんだなって嬉しくなる。
「プレゼント、すごくうれしいよ。蛍斗、ありがとう。」
甘い香りのする首筋に顔を埋めて、耳元で囁いた。
耳に息がかかると、ピクリと身を捩る蛍斗の髪を優しく梳く。
ふわりと柔らかくて手触りのよい髪・・・。
そのままキスをしようとした時ーーー
バンッ!
激しく寝室の扉が開く音がして・・・・
「見てください!ピッタリで・・・・・あ!佐々先輩、何やってるんですか!」
見られてさらに赤くなる蛍斗と、邪魔されてため息を付く俺・・・
明日は仕事だってのに、今日はなんだか長い夜になる予感がした。
ともだちにシェアしよう!