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第26話

ーーside 吉岡 要ーー 女の園の経理課に努めて早三年。 毎日女の子に囲まれて過ごすのは気分がいいな、 なんて・・・柊が来るまではそう思っていた。 毎日毎日入れ替わり立ち替わり各課の女子社員が柊を一目見ようとやってきて、 柊は柊で愛想を振りまいていて・・・若い男なら俺も居るっつーの・・・ まあ、あいつは後数カ月で営業課に異動だしな・・ あいつのムカつく顔を見るのも後少しだと自分に言い聞かせて今日も働く俺。 ちなみに俺は、俺から女の子を奪っていくイケメンは皆敵だと思っている。 あ・・・そういえば・・・伊藤は例外だった・・・・ 女の子に愛想をふりまく柊を見つめて、ぼんやりとそんな事を思っていると 伊藤と出会った時の事を思い出した。 ・ ・ ・ 俺が入社したのは、3年前・・・あの日の事は忘れもしない。 高校、大学とそれなりにモテてきた俺は、大手に就職できて 益々モテるぞ~!なんて思って舞い上がっていた。 入社式であいつらに出会うまでは・・・・ 今は知らなねーけど、当時は入社式の前に新規採用職員の顔合わせがあった。 採用人数300人程の新入社員に対して、3分の2は男で残りは女の子。 可愛い子いるかな~なんて、期待一杯で少し早く会場に入ると、 奥の方に人だかりができていた。 ・・・・・?資料でも、置いてあるのか・・・ にしては、集まっているのは女の子ばっかりで・・ たまたま隣に立っていた男に声をかける。 「あの・・あそこ、何があるんですか・・?」 「すごいよね・・・あれ、イケメン二人を女の子が囲んでるんだよ・・・」 「は!?」 良く見ると、こちらからは後ろ頭しか見えないけど、 長身の男が二人、真ん中に立っているのが見えた。 芸能人でもあるまいし、あんなに人だかりができるイケメンってどんなのだよ! 女の子と仲良くなろうという下心たっぷりで顔合わせ会に出ていた俺は当然イライラするワケで・・・ 「あそこまでされると、俺達って何なのって感じだよね・・・はは。」 そいつはそう言うと、メガネをクイッと人差し指で押し上げてため息をついた。 「マジで・・何なんだコレ・・・」 ピ――――ガ―・・・・・ 会場に響くマイクの雑音で我に返る。 俺は結局ドリンクを握り締めたまま、隣に立つメガネ君と その集団を見つめることしかできなかった・・・ 「はい皆さん、座席表の通り席に着いてください。 簡単な説明の後、入社式会場まで案内します・・・」 社員の指示で女の子がしぶしぶと席に着く。 一体・・どんな顔したヤツらだってんだよ・・・・ 人がバラけて、そいつらがこちらに向かってくる。 「・・・・・・・・・。」 心の中で悪態くらい付いてやろーと思っていた俺。 でも、そいつらを見て言葉も無かった・・・・・ 一人は背が高くてガタイも良い。 涼しげな目元に形のいい意志の強そうな眉、鼻も高くて男らしい顔つきをしていて。 まるで、俳優のようなヤツだった。いや、そこらの俳優も顔負けって位オーラがある。 何でこんなヤツが一般企業受けてんだよ・・・って、八つ当たりにも近いイラ立ちに襲われる。 もう一人のヤツは・・・ は・・・・?何だあいつ・・・・・。 デカイやつの隣にいるからあまり目立たないけれど、それなりに高身長で細い体。 体にピッタリと沿うスーツがそのスタイルの良さを引き立てている。 そして、何よりも驚いたのが・・顔、だ。 俺は生まれてきてあんなに綺麗なヤツを見た事がない・・・ 切れ長だけど、大きな形の良い瞳、真っすぐにスッと通った鼻、少し小さめの唇。 本当に整った顔だ。全てが完璧な配置で、無表情なその顔はどこか造り物のようで・・・ こんなヤツらが同期かよ・・・・何てツイてねーんだ! 勝ち目ねーし、モテモテでさぞ気持ちいいだろうよ! けっ・・・・ その後、配属先が発表されて・・・ その美しい顔の男と俺は経理課に配属された。 「吉岡君!俺、伊藤 蛍斗って言います! 経理で男は二人だけだね!これから、よろしくねっ!」 廊下で、こちらがあっけに取られる程元気良くそう言って手を差し伸べてきた伊藤の笑顔はまぶしくて。 さっきまでの、造り物みたいな顔からは想像がつかない程明るいヤツだった。 伊藤は女の子達に言い寄られても適度に距離を取って付き合っているため、 そのうち女の子からの誘いも減っていって・・・ 女の子にだけ優しい俺と違って、あいつは俺の事も色々と手伝ってくれたり、気にかけてくれて。 人間的に、スゲーイイ奴だし、男としても俺にとっての恋敵になりえなくて・・・ そんな伊藤を、友人として俺は結構気に入っている。 次々女を持ってく佐々とは大違いだぜ・・ 俺が狙っている子を3連続でモノにしやがった時はコロシテ・・やろうかと思ったくらいだ。 俺の事をいちいち小馬鹿にしてくるのもムカつくしな・・・ そんな伊藤が今日は少し元気が無い・・・というか、寝不足? なんかフラフラしていて見ていて危なっかしい。 その様子を柊が心配そうに見ていて・・・ 今日はいつも以上にアレコレと手伝っている。 女の子に対してフェミニストな柊は、俺への当たりは強いけど伊藤には従順だ。 まあ、伊藤はそーいうヤツだから、皆が寄ってくるのも分かるっちゃ分かる。 かといって柊みたいにあからさまに態度を変えられるとムカつくけどな。 「柊君、俺ちょっと書類探してくる。」 「俺が行きます!手伝います!伊藤先輩は、座っててください!!!」 「ちょっ・・・柊君、大げさだよ。ふふ。俺は大丈夫。急ぎがあるでしょ? 頑張って。」 「ハイ・・・・・。」 俺を見下ろすような目でふてぶてしい態度をとる柊のセリフとは思えねーな・・・ 俺の島の横を通り過ぎる伊藤の顔は若干青白くて・・・ 伊藤、体調でも悪いのか・・・? いつも世話になってるし、急ぎもねーし・・よし!手伝ってやるか。 そう思って俺は席を立って、部屋を出て行った伊藤の後を追った。

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