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第27話
廊下に出ると、既に伊藤はいなくて・・・
節電アピールで明かりを一列づつ消してある廊下は薄暗くてひんやりとしていた。
確か、書類を探すって言ってたよな・・・
カチャ・・・・・
「!!お、おい、伊藤!!お前・・・大丈夫か!?」
ドアを開けて、目に飛び込んできたのは、
各年度の会計処理ファイルが並んだ棚の前で書類を握り締めて
小さくうずくまる伊藤だった。
俺の声に一瞬ビクリと肩を揺らした伊藤がゆっくりとこちらを振り向く。
その顔には血の気が無くて・・・
その造り物みたいに綺麗な顔に見つめられて、ゾクリとした感覚が背中に走る。
・・ッ、一瞬の戸惑いの後、我に返って慌てて駆け寄る。
伊藤の横にしゃがみ込んで、倒れないように肩を抱いて俺の方に引き寄せた。
「お前、体調悪いのか・・・?熱でもあんの・・・?」
俺の腕の中、至近距離で黙って俺をじっと見つめる伊藤・・・
いつもは表情がクルクル変わってせわしない伊藤が、今は虚ろな瞳で俺を見上げている。
「お・・おい、お前・・・マジで大丈夫かよ・・・医務室行こうぜ・・・・」
「あ・・・・ヨッシーか・・・何でここに・・・・
俺、急に目の前が真っ暗になって、なんか寒い・・・。
今皆忙しいし、大事にしたくないからちょっとだけ肩かして・・・・。」
そう言って、俺の体に少し体重を預ける伊藤からフワリと甘い香りがして・・・
俺を見上げる表情は少し眉をひそめて苦しそうで・・・
なんか、エロい・・・。
ふわりと香る伊藤の香りは、女の子からする甘い香りとはまた違う・・・伊藤ってこんな香りだったのか。
少し浅く息をする伊藤をぐっと抱きしめる。
思った通り、華奢な身体つき。
なんだよ、こいつ・・・・・・・・。
ふわふわで柔らかい、俺が大好きな女の子達とは全然違うのにちょっとだけドキッとする俺・・・
黙って目を閉じてじっと俺に抱かれる伊藤。
こいつと知り合って、二人で飲みに行く事だって何度もあったのに・・・
伊藤、お前の完璧な顔と甘い香りのせいで、俺新しい扉を開けちゃいそうだぜ!!!
伊藤が大変な時に、男でも、こうも綺麗だと、悪い気はしねーな!なんて、くだらない事まで考える俺。やっぱ俺ってクズだな・・ハハ・・・。
シン―
「ヨッシー・・・俺、もう大丈夫かも。」
そう言って俺の腕から抜け出して、ゆっくりと立ち上がる伊藤。
「お前、無理すんな・・・・ッ!!!」
ドッ・・・!
「あッ・・・」
「っ、ぶね!ほら、無理すんなって、今日はもう帰れよ!」
よろけた伊藤を抱きとめて、尻もちを付く俺。
そんな俺の足の間に、抱きつくように伊藤が覆いかぶさっている。
香り、ヤバ・・・
どー考えても、女の子がいいんだけど・・・それでもちょっとドキドキしている自分が信じられない。
伊藤を抱きとめたまま、しばし俺の思考が停止していると・・・
ガチャ!
「吉岡センパイ!伊藤先輩に何やってるんですか!」
扉を開いた柊が、俺達を見て血相を変えて飛び込んできた。
いつも余裕たっぷりで、すました表情の柊の顔が
怒りに染まっていて・・・って、俺なんで怒られるんだよ!
「ちょっ、落ち着け柊!良く見ろ!俺が何かしてるように見えるのかよ!!!」
「あ・・・・、伊藤先輩・・なんでそんなヤツに抱きついてるんですか・・・」
そう言って、眉を下げてしょぼんとする柊。
でも、伊藤が俺に抱きついたからって何でそんな顔すんだよ・・・
ん?
「お前ッ!!!!今俺の事『そんなヤツ』っつったな!?
仮にも先輩に、そんなヤツってなんだよ!!」
「は?アンタに何か価値ありましたっけ?
佐々先輩ならまだしも、吉岡センパイは嫌です!!」
「なんで佐々ならいいんだよ!そもそも伊藤が誰に抱きつこうと関係ねーだろ!!」
「関係無くなんか・・・・」
「とにかく落ち着け柊!!伊藤は体調が悪いんだよ!」
言われて慌てて駆け寄る柊。
俺に被さる伊藤を奪うように抱き上げて、不安そうな顔でじっと見つめている・・・。
伊藤の為だったら、そんな顔もすんのか。
本当何なのこいつ・・懐きすぎだろ・・・
俺への態度とのギャップに、もはや笑うことしかできない。
まあ、俺クズだしな・・・。
「熱・・・・」
「は?」
「熱がありそうです・・・俺、医務室行ってきます!
吉岡センパイ、佐久間係長に伝えておいてください!」
「お、おう・・・」
そう言って、柊は伊藤を軽々と抱えて走り去って行った・・・・。
何なんだよ本当・・・・
急にドッと疲れた俺は、しばらくそこから動けなかった・・・・。
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