29 / 32

第29話

「フハッ、お前、本当見かけによらずダセーな。」 「佐々先輩・・・、いつからそこに・・・」 「お前が寝てる蛍斗にめちゃくちゃなキスしてた辺りから・・・かな。」 クスクスと笑いながら寝室の入り口の前に腕を組んで立つ佐々先輩。 色々イッパイイッパイだった俺はその気配に全く気がつかなかった・・。 「な・・・何でここに居るんですか!?」 「今日定時で上がれたから、帰りに声掛けようと思って顔出したらお前らが居なくて、吉岡が教えてくれたんだよ。」 「・・・チッ。」 「ふっ。俺、嫌われてんな~。で、お前は蛍斗に何の手当てもしないで何してんだよ。」 「今から・・・しようとしてたトコです。」 「先にキスかよ・・・クックック・・・」 意地悪く、心底楽しそうに笑う佐々先輩。 そんな笑い方も、男らしく整った顔によく似合っていて・・ ガサリ。 何も言えないでいる俺に、佐々先輩が大きなビニール袋を持つ手を少し高く上げた。 「色々買ってきたから、とりあえずリビング来い」 「・・・・はい・・・。」 看病に全く自信が無かった俺は、佐々先輩の来訪に不本意ながら安心してしまったのも事実で・・ 今は伊藤先輩の風邪を治す事だけ考える事にしよう。 そう思って佐々先輩の言う事を素直に聞く事にした。 「まずは蛍斗を着替えさせるぞ。風呂場からタオル持ってこい。俺は着替え用意しとくから。」 「はい・・・。」 佐々先輩はどこに何があるかを、まるで自分の家みたいによく知っていて。 当たり前だけど、それが少し寂しく感じてしまう。 そんな事を思いながら、風呂場でタオルを固く絞る。 俺だって、もっと早く知り合っていれば・・・ 暗くなる思考を振り払って寝室に向かうと、佐々先輩が伊藤先輩のシャツやズボンを取り去っていた。 「熱、高けーな・・・ずっとこうなのか・・・?」 タオルを一枚手渡しながら今日の事を話した。 「はい・・午後からはずっと・・・俺が迎えに行ってからはほぼ寝てますけど、それまでは寝たり起きたりしてたみたいです。」 「蛍斗は昔から熱に弱いんだよな・・・」 汗で濡れた額に張り付く髪を優しく梳いて、愛おしそうに伊藤先輩を見つめている。 本当に大切に思っているのが伝わってきて・・ その姿に、嫉妬とは違う暖かい感情が湧き上がってくる・・。 何だろう、この気持ち・・・。 「ほら、ぼーっとしてねーで拭けよ。変な気、起こすなよ?」 「ッ!分かってますよ!俺そんなんで興奮する程ガキじゃないですよ。」 「さっき寝てる蛍斗にキスしてたのは誰だよ。」 ニヤリと笑われて・・ダメだ、俺、佐々先輩の前だとペースが崩れるな。 何を言っても言い返されそうで、伊藤先輩を綺麗にする事に集中することにした。 ぐったりと横たわる伊藤先輩を上下黒のスウェットに着替えさせると、佐々先輩が俺の方を向いてふっと優しく笑う。 何だよ・・急に。 「お前が居てよかったよ。すぐに医務室に連れていってくれたんだってな。」 ベッドの上、俺のより少しだけ大きな手が伸びてきて・・ クシャリと髪をかき混ぜられる。 「・・伊藤先輩の為ですから。」 「ふっ・・可愛くねーな。」 そう言うと、伊藤先輩の頬をひと撫でして、リビングへと向かう佐々先輩。 何でこんな優しくするんだよ・・・なんか、調子狂うな・・・ 「さて、飯だけど・・・お前、作れる?」 「え・・・?」 「俺達と、蛍斗の飯だよ。」 「料理、したこと無いです・・・」 また、バカにされるかな・・少し身構えて佐々先輩の返事を待つ。 「じゃあ、俺達のは俺が作ってやるから、蛍斗のはお前が作ってみるか?教えてやるよ。」 「え!伊藤先輩の分を!?やります!やりたいです!」 腕組みをしながらキッチンにもたれかかって、意外な提案をされる。 どういう風の吹き回しか、今日の佐々先輩は俺への態度が柔らかくて・・ 俺の事まで世話を焼いてくれる佐々先輩を見ていると、 兄貴がいたら、こんな感じなのかな・・なんて思ってしまった。 「よし、じゃあ始めるか!」 「はい!」 伊藤先輩にいいところを見せたい! 俺は張り切ってキッチンに立ったのだった。 ------------------

ともだちにシェアしよう!