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第31話

ーー side 伊藤 蛍斗 ーー ん・・・熱い・・・・ ふと目が醒めると、視界に入ってきたのは見慣れた天井だった。 あれ?俺の家だ・・・。 違和感を感じて頭に手をのせると、額には冷えピタが貼ってあって、 視界に入る腕を見るといつものスウェットを着ていて・・ 俺、確か医務室で寝てたはずなのに・・ どうやって帰ってきたんだ・・? ガチャ・・・ゴトン。 「あぶねっ!お前、本当見た目だけで中身はガサツだな!蛍斗が起きるだろ。」 「もー・・いちいち一言多いですって!」 寝室の扉の向こうから、ササと柊君の声がする。 二人が俺をここまで運んでくれたんだろうか・・・。 「・・・ッ・・・・。」 体を起こすと少し目眩がして、ベットに腕を付いてなんとか体を支えて、 息を整える。 「・・・はっ・・・はぁ・・・」 俺は昔から熱に弱くて・・ ちょっとした熱でもすぐに寝込んでしまって、良く学校帰りにササがお見舞いに来てくれていた事を思い出す。最初はうつるからって断ってたのに、ササは無理やり上がりこんできて・・・でも、不思議と一度もうつらなかったんだよな・・・ふふ。昔を思い出して心がぽかぽかしてくる。 本当に何十年も昔から俺の傍にいてくれたんだったよな・・・。 ・ ・ 『蛍斗、やっと繋がれた・・・愛してる・・・。』 ・ ・ ササと俺は今まで離れた事なんてなくて・・ そしてこの間、俺たちは・・・本当に繋がったんだ・・・。 ・・・ササに会いたい。・・・扉までの距離がすごく遠く感じる。 熱のせいか、急にササが恋しくなってきて・・・ 男同士とか、幼馴染とか・・ そんな戸惑いの気持ちなんてすっかり忘れて、ただただササに会いたい。 「あー、早く伊藤先輩に食べてもらいたいな。」 「ふっ。まあ、頑張ったもんな。」 「そうなんです!料理なんて本当初めてですから!」 柊君・・・俺に・・・何か作ってくれたの? カッコ良くて、女の子の前では王子様みたいな柊君は、俺の前ではスキンシップが多くてすごく可愛いくて。俺だけに見せる顔が嬉しくて、柊君の事はついつい構いたくなってしまう。 昨日と今朝の柊君が頭をよぎる。 欲情した色気のある表情で真剣に俺を見つめていて、その顔は息を飲む程カッコ良くて。 でも、そんな柊君が余裕のない顔で欲望を素直に口にするのはすごく可愛く思えてしまって、なぜかその期待に応えたくて俺は必死に舌を動かしたんだ・・・。 「まあ、ゆっくり寝かしてやろうぜ。」 「はい・・・。」 少ししょんぼりした声の柊君。 すぐそこに二人がいるのに・・・ だいぶ・・落ち着いてきた・・・ 真っ暗な部屋で一人は寂しい。 二人に会いたい。 ゆっくりとベッドから足を下ろす。 一歩、二歩・・・・・・ 薄暗い室内、目の前に見える扉がグニャリと歪む。 「・・・あっ・・・ーー」 ドサッ・・・・! 「蛍斗!?」  「伊藤先輩ッ!?」 二人の呼ぶ声が同時に聞こえて、ドタバタと走る音がしたかと思うとすぐに扉が開かれた。明るい光を背にしてササと柊君が寝室に飛び込んでくる。 「・・・・・ッ・・・・。」 「蛍斗!大丈夫か!?」 「伊藤先輩!!大丈夫ですか!?」 心から、心配そうな顔。 俺の目の前で二人が膝をついて右手と左手をそれぞれ差し出していて・・・ 右手を柊君に、左手をササに・・・・俺が二人の手をとると、少し驚いた顔をした二人がお互い見つめ合ってクスリと笑い合った。 「俺、すげー嬉しいです!佐々先輩を超える日も近いですね!」 「バーカ。蛍斗は優しいから、仕方なくお前の手も取ってやったんだよ。な?蛍斗?」 少し意地悪な顔でお互いが嫌味を言い合って・・ でも、二人とも何だか楽しそうに見える。 そんな二人を見ていると、俺も自然と笑みが零れた。 「よかった・・・伊藤先輩・・めっちゃ心配しましたよ〜!」 「寝てなくていいのか?体だるいだろ?」 ササの空いた手が俺の額に伸びる。 それを心配そうに見つめる柊君。 「・・・・・ん、まだ熱はあるけど、さっきより下がったな。」 「あーー・・よかったです・・・もうちょっと寝てますか?」 二人からは俺を心配する言葉ばかり。 俺は何て幸せ者なんだろう。 頭は少しぼーっとするけれど、胸に暖かいものが込み上げてくる。 手だけ・・じゃ、足りなくて。 握っていた手を思い切り引き寄せると、不意をつかれた二人は前のめりに体制を崩した。 「っ!」 「わ!」 俺の方にぶつかり合って傾く二人を両手で抱きしめようとしたけれど・・・ 熱のせいで力が入らなくて、受け止めきれずに三人で後ろに倒れ込む。 ドサッーーーー 二人の重さを感じる事が幸せで・・・ 「俺・・・今、すごく幸せ・・・。ごめん・・。」 二人に告白されて、どちらか選ばないといけないのに・・・ 俺の気持ちは中途ハンパだ。 二人に会いたくて、包み込まれて幸せを感じてしまうなんて。 「何で謝るんだよ。俺は、幸せだよ。」 「俺も!俺もめちゃくちゃ幸せです!俺・・・ここに居てもいいって事ですよね!?」 「ササ、柊君・・・二人とも大好きだよ・・・。俺・・恋愛した事無いから、どうしていいか分からないんだけど、二人といると心が凄く暖かくなるんだ・・・。」 「俺は蛍斗が必要としてくれる限りずっと一緒にいるよ。」 「俺もです!伊藤先輩に嫌われるまでずっと離れません!」 そう言って二人に抱きしめられて。 「ありがとう・・俺も、ずっと一緒にいたいよ・・・」 床の上、三人で抱き合って笑い合う。 「蛍斗、俺たちの愛は重いぜ。覚悟しとけよ。」 そう言ってニヤリと笑うササを見て、うなずく柊君。 「ふふ。二人とも、俺からの愛も覚悟しといてね。」 「伊藤先輩!俺、幸せです!」 柊君が俺を抱きしめる手にぎゅっと力を込める。 ササは俺の髪に優しくキスをして___ お互いを大切に思って、時には喧嘩もして・・・ でも、きっと、この三人ならうまくやっていける。 人と深く付き合えない、恋もした事がない・・ 俺の心はずっと檻に囚われたままだった。 けれど、ササはそんな俺が壊れてしまわないようにずっと大切に守ってくれた。 そして、その檻の扉を柊君が開いてくれた。 これからは檻の外で、三人の新しい未来が待っているんだ。 -------------------------------------------- 作者です。 ここまで読んでくださって、ありがとうございます! 本当に、感謝してもしきれません・・・ あと一話、後日談があります。 3人のその後もまた見ていただけると嬉しいです。

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