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第29話
神崎先輩が一緒の昼食。想像しただけで、げんなりしていたが、昼休み、嬉しい誤算が生じた。
「本郷、お前の兄ちゃん来てるぞ」
クラスメイトに伝えられ、教室の入り口に目をやるとかなちゃんがにっこりと天使のように微笑みながら俺を手招きしている。
愛くるしさが半端ない……!
気を緩めたら今にもへらっとしてしまいそうで、咄嗟に頬の内側を噛みながら、俺は弁当を鞄から取り出してかなちゃんの元へと向かった。かなちゃんの前へ立つと、かなちゃんは俺を見上げる。
「啓太」
「あれ?かなちゃん、神崎先輩は?」
一緒じゃないのか……?
「えっと……啓太が誰にも聞かれたくない話があるのかと思って、神崎には遠慮してもらったんだ」
「え」
まじで!
かなちゃん、ナイス……!!
俺は拳を握り、小さく腰の辺りでガッツポーズをとった。
かなちゃんはにこにこしながらこっちを見ていた。
神崎先輩の不在にガッツポーズなんて、不審に思われるかも、とハッとなり慌てて拳を引っ込めた。
「で、どこで食べる?」
「いいところ知ってるんだ。行こう」
「う、うん」
いいところ?どこ?
先を歩くかなちゃんについて行く。渡り廊下を渡って体育館の方へ歩いて行く。
体育館の前を横切り、人工芝のテニスコートを通り抜け、きれいに手入れされた植込みの裏へ入る。
ガサガサと植木が制服に擦れる音がする。
まさか漫画じゃあるまいし、この植込みの中に草原でも広がっているというのだろうか……?
「ちょ、かなちゃん。どこ行くの」
「ここ!」
「せま!」
植込みの裏は人ひとりが通れるくらいの道があり、その道は植込みに挟まれている。
つまりそこへ座ると、目の前も背中側も植込みに囲まれるということになる。
狭いが誰の目も届かないのは確かだった。
「ここなら誰にも聞かれることもないだろうと思って」
かなちゃんは得意げな顔をして俺を見た。
ちくしょう。どや顔も可愛いぜ……。
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