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第46話

「実際弟なんだからしょうがないでしょ」 痛いところを突かれ思わず項垂れる。すると神崎先輩のごつい手が俺の頭にポンと乗っかった。 「相当ライバルいるぞ。がんばれよ」 え、そんなにライバルいるの? 男?女? 何人ぐらいだ!? 天使のかなちゃんだ……。誰しもがいつ虜にされてもおかしくないぞ。 あ、一応ここは礼を言っておくべき? 「はぁ……、ありがとうございます」 ……? あれ?いや待てよ。 俺は今、応援されたのか? ってことはこの人ライバルじゃないの? もう完全に訳がわからない。 もしかしたらライバルだけど余裕綽々な感じでバカにされただけかもしれない。 ……あり得る。 居心地が悪いままバスに揺られ、学校最寄りのバス停で降りた。 「じゃ、失礼します」 そう告げて、そそくさと昇降口を目指した。 むさ苦しいバスだった。 完全にかなちゃんが足りない。 かなちゃん不足だ! このままではかなちゃん欠乏症で死んでしまう。 がつがつと大股で教室へ向かう。 途中、背中にどすんと衝撃を受け、何が起きたのかと慌てて振り向いた。 「おはーっ」 「っんだよ、米本か。びっくりさせんな!」 「ごめんごめん。広い背中が何だか今日は寂しげに見えたもんだからつい」 「寂しくねーよ」 てへへ、と人の背中に飛び乗って可愛い子ぶった笑いを披露するのは同じクラスの米本充希(ヨネモトミツキ)だ。 顔はジャ○ーズのアイドルみたいに可愛いらしくて、ゆるくパーマのかかったようなマッシュカットがよく似合っている。身長は男にしては残念なくらいミニマムで160センチあるのかないのか。 その可愛らしさを生かして、クラスでは弟キャラで基盤を固め女子にはまるで子犬のように可愛がられている。その実裏では性格が悪い。 可愛い弟系を演じる腹黒野郎だ。 「今日はお兄さん一緒じゃないの?」 「あぁ……一本違うバスで来たから、兄貴は先に登校してるはずだけど」 「そうなんだ」 「なに、なんか兄貴に用?」 「別に。あのさ」 「うん?その前に俺の背中から下りような」 「ああごめんごめん。広い背中かっけーなって思って、思わず飛び付いちゃった」 身軽な体をストンと着地させ、にこっと笑う。 この無邪気な笑顔に女子は母性をくすぐられるらしいのだが、俺は騙されない。 こいつはそんな奴じゃないのだ。 「で?」 「本郷って、神崎先輩と仲いいの?」

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