「仲いいも何も、家近所でそんなに仲良くはないけど子供の頃は遊んだこともあるし……幼馴染というやつ」 「家、近いんだ……」 「あぁ、うん……。なんで？」 米本の顔が何かを企んでいるような表情に見えて、俺は思わず奴から半歩横に離れた。 「あ、なぁ！じゃあお兄さんは？神崎先輩と仲いいの？」 俺の質問はスルーかよ！ まったく……。 「……まぁ。同い年だし、気心知れた間柄だと思うよ」 「ふーん」 「だから何で？それを聞いてどうすんの？」 「いやぁ。神崎先輩ってカッコいいじゃん！俺みたいなチビからすると憧れるっていうか。本郷は全然似てない兄ちゃんと、神崎先輩と、朝はよく一緒に登校してるみたいだったから」 「……？」 もしかしてこいつ……。 「神崎先輩を紹介して欲しいの？」 「えっ……」 米本の同じ高校男子とは思えないつるんっとした頬が、さっと赤くなる。 ちょっと可愛い。 これはもしや。 さてはこいつ、神崎先輩に惚れてるな？ 「米本のこと、神崎先輩に紹介してもいいけど」 「ほ、ほんと？」 俺が提案した瞬間、米本は大きな目を丸くして両手を胸元でぎゅっと握る。 この表情、この仕草。 動きそのものは雑だけど、モーションとしては恋する乙女みたいだ。 うん、間違いない。確信した。米本は神崎先輩に惚れている！！ こいつは日頃女子にちやほやされてるからな。まさかこんな所に同類が潜んでいたとは思わなかった。 それに、かなちゃんを狙っているのか何なのかよくわからないが、神崎先輩は俺にとって一番の不安要素。 もし神崎先輩が男もいけるってんなら、この米本を宛がっておけば、俺的には万事安泰だ。 なんかちょっと考え方は汚い気もするが、かなちゃんを手に入れる為だし。 恋愛に、ズルいも待ったもない。ここは米本に奮闘してもらおうじゃないか！！ 「いいよ。じゃあ早速今日の昼休みにでも会ってみる？」 「うん」 米本の目がキラキラと輝いている。 よしよし。そのうるうるお目目で神崎先輩をノックアウトだ！ 邪魔者が一人いなくなれば……、と腹黒い妄想にふけっていた俺だったが、肝心なことがすっかり頭から抜け落ちていた。 それが俺とかなちゃんの間に誤解を生み、関係をこじらせてしまうなんて、この時の俺はまだ知らなかったのだ。