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第50話

すると米本は顔を赤くして子犬のように俺の後ろで小さくなっている。 「米本、ちゃんと顔見せて。このままじゃ紹介できないぞ」 俺の言葉に米本は渋々動きだした。 俺の背中からちらっと顔を出し、俺の腕に両腕を絡めてしがみつく。 米本はお化け屋敷にでもきた女子みたいだった。 神崎先輩とかなちゃんは、すぐに目の前までやってきた。 「どうした本郷弟」 「ちわーっす。良かったらお昼一緒してもいーすか?」 「いいけど。なぁ?」 神崎先輩がかなちゃんに同意を求め顔を向ける。 かなちゃんは俺と米本を交互に見て静かに頷いた。 「啓太、その子は友達?」 「あぁ。米本っていうクラスメイト。こいつか……」 「わ、あーっ!っと、は、初めまして!俺米本充希です!よろしくお願いします!」 折角神崎先輩に紹介してやろうと思ったのに、こいつは俺の言葉を遮って、俺の腕にしがみ付いたまま自己紹介を始めた。 結構力強くしがみつかれ、重たい……。 「よろしく。米本君」 かなちゃんが微笑む。 けれどその顔はどこか浮かない表情だった。 「よろしくな」 「よっろっしくおねがっいします……!」 しどろもどろ過ぎるだろう!! こいつ、本当に神崎先輩のことが好きなんだなぁと、傍から見てもすぐわかる。 真っ赤だし、なんか可愛い弟系にしか見えないし。それにしたって腕にしがみ付き過ぎ! 「どこで食う?」 「天気もいいし、屋上行く?」 「わかった」 「いっ、いいですねっ!屋上ですか!だ、大賛成!でえす!」 好きな人を目の前にして緊張するっていうのは仕方ないことだし、多少挙動不審になるっていうのもわからなくはない。しかしちょっとうざくなってきた。 廊下を歩いている最中も、屋上へ向かう階段を上っている最中も、俺の腕から米本が離れないのである。 「このヘタレ」 俺が小声で米本に声をかけた。 ヘタレな上、うざい。俺とかなちゃんの貴重な休み時間を潰しやがって。 「うっさい……。ここから俺は巻き返す……!!うわっ……!」 「おわっ!」 しがみついているだけでも迷惑甚だしいというのに、米本は階段で脚を踏み外しカクンと前のめりに転倒しそうになった。 巻き込まれる!!そう瞬時に判断した俺は、米本を抱き締めて支える。 「ふー。お前ちゃんと前見て歩けよな!」 「あ……あぶねーな!」 「バカか!あぶねーのはお前だ、アホ」 「うるさい」 逆切れかよ! くっそー。可愛くない。こんなの神崎先輩だってノーサンキューだろうな。 しかし、こういう時、こいつ小さくて良かったなって思えた。 大男だったら支えきれないし、運命共同体となって一緒に階段下へ転落していただろう。

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