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第51話
だから思わず言葉が零れた。
「無事でよかった」
「う……ごめん」
素直に謝る米本は気持悪かった。
階段を上る脚を止め、ごちゃごちゃとやっていたら階上から神崎先輩の声が響いた。
「なんかあった?」
「いえー、なんでもないっす」
「ないっす……」
俺に続いて米本も同じセリフを繰り返す。が、どうにも声が小さい。恥じらう女子か!
じろりと米本に目をやって、上を仰ぎ見る。
するとかなちゃんがこっちをじいっと見詰めていた。
その顔は無表情に近く、どこか冷たささえ感じる程で。
かなちゃんもしかして体調不良?
どうしたんだろう。クールビューティ……。そんなキャラじゃないのに。
なんだか変だ。
俺は違和感を拭えないまま屋上へと向かった。
晴れた日の屋上は、生徒たちで賑わっている。
人目があると米本だって自己アピールがし辛いだろうし、俺ももちろんかなちゃんといちゃいちゃなんてできそうにない。
どうにかかなちゃんを連れ出すしかない。
「この辺座ろうぜ」
神崎先輩が先に壁際のフェンスを背に、4人が座れそうなスペースを確保した。
「米本、いい加減離れろよ」
「あ、おお、すまん」
やっと米本が俺の腕を解放した。
除霊でもしてもらったみたいに肩が軽くなる。
俺達はそれぞれ持参した弁当や購買で買ったおにぎりなんかを地面に広げた。
「あ!昼飯!」
「は?」
米本が声を上げた。セリフからして嫌な予感しかしない。訝し気に米本を観察する。
……!!今気付いたが、こいつ手ぶらじゃねぇか!!
「忘れたの?」
それに気付いたかなちゃんが米本に声をかけた。
「あ……はい……」
「じゃあ、俺の半分食べる?」
「え……いいんですか」
ん!?かなちゃんの弁当をこいつ食べる気か?かなちゃんの細い体を見てわかるだろう。食べなきゃ精が付かないんだよ。かなちゃんの栄養源を奪うつもりか!図々しい!!
米本の図々しさにイラつき、かなちゃんが差し出そうとした弁当の前に自分の弁当箱をどんと置いた。
「兄貴のじゃなくて、俺の食えば?中身はかなちゃんのと一緒だけどな」
「え……」
「だから、俺の半分食べていいよ」
「良かったら俺のも食べていいぞ」
神崎先輩もおにぎり1個を米本に差し出した。
米本はかあぁっと顔を赤くして、「あざす」ともごもご口を動かした。
本当に手のかかる奴。かなちゃんはまた表情を無くして俺と米本を見ている。
米本の残念っぷりに引いていたりして。
……でもかなちゃんは基本優しいから、そんなことで怒ったりはしないけどな。
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