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第52話
「かなちゃん、こいつには俺の食べさせるから」
俺はかなちゃんに弁当箱をさっと返した。
「……」
かなちゃんはそれを無言で受け取る。
その様子がやっぱりどこか変だった。
「かなちゃん具合悪くない?」
「え?いや、別に……」
もしかして熱でもあるのかな?
そう思って額に手を当てようとした。
「……っ」
だけど、かなちゃんはぱっと顔を背け、俺の手を拒絶したのだ。
「かなちゃん……?」
「……ごめん、でもほんと大丈夫だから……」
「……」
こんなに顔色を無くして大丈夫な筈ないだろうと思った。
それだけじゃなく、俺の手を跳ね除けた。こんなの……子供の頃のケンカ以来、一度もなかった気がする。
ただの拒絶?どうして?
それとも……何かに怒っているということ?
そう考えると、急に心臓が痛くなる。
怒られることは沢山してる。心当たりはたんまりとあった。
急激に落ち込む俺とは反対に米本は隣でテンションがフィーバーしっぱなしの様子で俺の弁当をもぐもぐと遠慮もなしに食べている。
俺の昼飯……。
と一瞬思ったものの、かなちゃんに拒絶されたことがかなり堪えたみたいで食欲も失せてしまった。
昼飯はもういいや……。
「なんだ本郷、お前食わないのか?俺全部もらっちゃうけどいいの?」
俺の心を知ってか知らずか米本がこっちを見ながら口を動かす。唇の脇に米粒をつけながら。子供か。
「いいよ、別に」
俺は何も考えずその米粒を取ってぱくっと食べた。
「ん?何だよ」
「何って米粒。取ってやったんだから有り難く思え」
「げ、恥ずかしい」
小さな声でぽそっと米本が呟くように言った。
米粒つけた顔を神崎先輩に見られたと思ったのだろう。米本は頬を赤く染めて俯いた。
かなちゃんは、さっきより更にどんよりとした空気を纏ってこっちをじっと見ている。
やっぱりどこか具合悪いんじゃないだろうか。
心配だ……。
「このミートボールうまっ!本郷んちの母ちゃん料理うまいんだな」
「お前ちっこいのによく食うね」
「えっあっ、はいっ、す!」
こっちはかなちゃんの様子が変だから、どうしたものかと探り探りでびくびくしてるってのに、米本は神崎先輩の隣で幸せそうにテンパっている。
……。
何だかむかつくな。
俺はこの能天気な米本に少し意地悪を仕掛けたい気分に駆られた。
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