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第53話

「米本」 「んあ?」 んあ?って何だ。んあ?って! 人の弁当食っといて、返事は「はい」だろうがぁ……! 俺の顔は次第に険しくなっていく。 性格悪し、態度でかし、でよく今まで普通に、いや、ちやほやされながら学校生活を送ってこれたもんだ。 「やっぱり俺も腹減った。その卵焼き、くれ」 「え……」 恐らく好きだからとっておいてたとみられる卵焼き。最後の一切れ。 それを容赦なく要求する。 米本は口をぽかんと開けたまま俺の顔と卵焼きを見比べている。 なんて間抜けな顔なんだ。 神崎先輩の目の前だ。汚い言葉を吐いて断るなんて真似はしない筈。 俺は、あーん、と米本の目の前で大口開けて卵焼きが放り込まれるのを待った。 じーっと米本をみつめていると、米本は一瞬物凄く顔を顰めたが、「お前ら仲良しでいいなぁ」と神崎先輩に声を掛けられ、米本は再び頬を赤く染める。そしてそのデレ顔で卵焼きを箸でつかみ俺の口へ運んだ。 米本のデレ顔が世間一般的には可愛い部類に分類されるんだろうが、俺からすると腹立たしいことこの上ない。もしゃもしゃと咀嚼するが、いつもは美味しい筈の義母さんの卵焼きが、なんだか味気なく思えた。 「プチトマト」 「くっ……」 米本は言われるがまま様々なおかずを口へ運んできたが、流石にプチトマトは指で摘まんで差し出してきた。 頬は赤く、しかし俺が憎たらしいのかしかめっ面で、トマトをずいっと突きだしてくる。 人の弁当食っておきながらしかめっ面とは何事だ! 俺は腹立たしさまぎれに、米本の指ごとプチトマトをぱくりと加え、本当は噛んでやりたかったところをぐっと堪え、べろんっとその指を舐めてやった。 「ひっ……!」 米本の体がびくんと跳ねる。 まさか舐められるとは思っていなかったのだろう。笑ってしまいそうなくらい驚いていた。 眉を下げて恐怖に戦くような表情が最高に俺をスカッとさせた。 「ざっけんなよ、お前っ。恥かせやがって後で覚えてろよな!」 米本が子犬みたいにきゃんきゃん吠えるが、どこ吹く風とばかりに聞き流す。 「別に減るもんでなし、いーじゃん」 神崎先輩のことだって紹介してあげたんだし。 ちょっとくらいストレスの捌け口になってくれてもいいだろう。 相変わらずかなちゃんは元気ないし。 ちらっとかなちゃんに目をやると、かなちゃんは下唇を噛んで俯いていた。 何かを堪えているみたいだった。 もしかして体調不良を我慢しているのか? それにしたってそんなに強く噛んだら傷になる。 思わずそこへ手を伸ばし掛けた、その瞬間。 かなちゃんは広げていた弁当箱をさっと片付け立ち上がった。

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