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第54話
「ごめん、俺用事思い出した。先に戻るね」
憂いを帯びた表情で悲し気にかなちゃんが微笑む。
そのままかなちゃんはドアの方へと歩いて行った。
どうしてそんな顔で微笑むのだろう……。
物凄い不安に襲われた。
怒ってるでもなく、ただ悲しんでいるのともどこか違う。かなちゃんのそんな顔、見たことない。
今すぐ抱き締めて俺の腕で包み、ただ大丈夫だよと伝えてあげたい。
そう思わせる程の儚ささえ感じて、かなちゃんを引き留めようと立ち上がろうとした。
だが神崎先輩の手が俺の動きを制す。
「俺がいく」
「え」
「お前が行ったら余計ややこしくなりそうだからな」
「は……?」
どういう意味だ?
この人、かなちゃんを慰める役を買ってでるつもりか?
もしそうだとしたら、下心しか感じないんですけど……。
でも……。俺の手を振り払い拒絶したかなちゃんが脳裏を過り、言葉が出なかった。
「えっと米本だっけ?余ってるおにぎりやるよ。沢山食べて大きくなれよ~」
「え、はい!あざっす!」
俺はかなちゃんと神崎先輩の後ろ姿をただ茫然と眺めていた。
「俺が行く。だって!かっけー!!」
突然米本が声音を低く、きりっとした表情で、神崎先輩の台詞を真似する。
しかし米本の声はにわかに小さくなり、みるみるうちに、しょんぼりとしてしまった。
「……けど、なんか……。なあ本郷、あの二人、もしかして恋人同士だったりする?……って、知らねーよなそんなこと。知ってたら先輩に紹介するなんてことしないよな……」
「こ、恋人なわけないだろ!」
と思うけど……確証はない。
「そうだよな……。そう簡単に男同士で付き合うわけないよな……。でもあの二人は端から見てもしっくりくるっていうか、お似合いだと思わねぇ?こんなこと言いたくないけどさ」
「なんだ米本、お前弱気だな。そんな柄じゃないだろ。頑張れよ」
くそー。こいつを神崎先輩に押し付ける作戦は失敗だ。次はどうする……?
「お前、やけに協力的だけど、なんなの?ちょっとキモいんだけど」
「キモいって……。っつーか米本は色気が足りない。もっとこう、うふ~ん、あは~んみたいな感じで神崎先輩を落としてくれよ。頼むよ」
「はぁ!?」
自分でもバカなことを言っているのは百も承知だ。
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