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第55話

けど、こいつの手を借りたいほど、俺も形振り構っていられなかった。 というのも、どうにも神崎先輩の存在に危機感を覚えてしまうからだ。 野性味溢れる男らしい見た目に気さくな人柄、その上面倒見もよくて優しいとくれば、そりゃあモテるだろう。 学年の違う米本でさえ、神崎先輩の魅力に気付いたのだから。 「あ……そういや米本はなんで神崎先輩のこと知ってるんだ?」 米本は神崎先輩が置いていったおにぎりを前に手を合わせる。いただきますのポーズだろう。好きな人には律儀だな。 「それが実はさ、入学したばかりの時に、階段から落ちそうになったことがあってそれを助けてもらったんだ」 「へぇ」 こいつ意外とドジっ子だな。 「落ちると思ったから怖くてすげー焦ったし、めっちゃドキドキしてさ。心臓破裂するかと思ったよ。そんで俺の腕引いて助けてくれた人の顔見たら神崎先輩で。そんでまたドキドキして。それから憧れというか、まぁその、なんだ。とにかく神崎先輩を見ると緊張するんだ。だからさっきまでホントどきどきしてた。大袈裟かもしれないけど命の恩人だし、あんなにカッコよければ憧れるよね。だから実際のとこ、ただの憧れなのか、ラブの方で好きなのかイマイチ自分でもよくわかってないんだ……」 「……」 それって恐怖体験時に出会った人を好きになる吊り橋効果ってやつなんじゃないか……? ……。 ちょっとだけ米本が不憫に思えてしまった。 「で?お前は?なんでそんなに俺と神崎先輩をくっつけたがってんの?」 「それは……」 かなちゃんと神崎先輩がくっついたりしたら非常に困るからだ。 だって俺は、かなちゃんが好きだから。 しかし、こいつにそれをぶっちゃけるわけにはいかない。 何て答えようかと頭を捻る。 考えていると、米本が急に何かに閃いたらしく、自分の膝をペンと叩いた。 「あ!わかった!お前、兄ちゃん取られて悔しいんだろう!ブラコンだブラコン」 ブラコン? ……もしかしてそうなのかな? 極度の行き過ぎたブラザーコンプレックスが、俺の性欲を歪めたというのか? ……ありうる。 「ま、まぁ……そんなとこ……」 ここはブラコンということで手を打つことにした。 「……やっぱり男同士だから?」 米本がおにぎりをかじりながら、そんなことを口にした。 「いや別にそこに偏見があるわけじゃないんだけど、神崎先輩が兄貴の恋人だったらやだなってだけ」

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