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第60話
「啓太……俺、失恋しちゃった」
「え……!?」
寝起きの頭は一気に覚醒し、一瞬にして頭が真っ白になった。
腕の中のかなちゃんは瞼を伏せて唇を噛んでいた。
ちょっと待って。
思考が追いつかない。
失恋した?誰に?
っていうかかなちゃんは神崎先輩の家から帰ってきたところで……。
え?かなちゃんの好きな人が神崎先輩で泊まりで告って振られたってこと?
いやちょっと待てよ。
そうとは限らない。
かなちゃんが他の誰かに失恋して、神崎先輩に慰められに行っていたのかもしれない……。
これは……。
どっちにしても聞き捨てならない。これは由々しき事態である!!
体中の血が頭に上って、ネジがぷつんと飛んだ。
許せない……、我慢できない……、かなちゃんは俺のだ……、誰に失恋したんだ……!?
「かなちゃん……」
「…っ」
強い力でかなちゃんの肩に手をやり、ベッドへぐっと押し付けた。
「け、啓太?」
「失恋ってどういうこと?まさか神崎先輩に?」
「え」
かなちゃんは驚きに目をぱっと見開いた。その表情は図星を突かれた肯定の驚き?それとも神崎先輩じゃない他の誰かに……?
「やだ……、いやだよ、かなちゃん!かなちゃん誰に失恋したの!?神崎先輩のとこに泊まりにいってたのはなんでなの?慰めてもらうため?……だったとしてもなんで神崎先輩なんだよ!!」
「ちが、ぅ」
「違わないだろ!!……そういやかなちゃん、俺が男が好きだって言った時、あまり驚かなかったよね?それってもしかしてかなちゃんも同類だったってこと?男に振られて神崎先輩に慰めてもらった?もしかして抱かれたの?ねえ!!」
「啓太、落ち着いてっ、んうっ」
かなちゃんの口から零れる声がとても耳障りで、言い訳する言葉を聞きたくなくて。
俺は強引にその唇をキスで塞いだ。
歯と歯がぶつかってしまいそうな乱暴なキスで。
「ふっ……んっ、ん」
かなちゃんの苦しそうな声。
可哀想。俺みたいなバカな弟に想われて。
だけどかなちゃんの口の中は熱くて甘い。
怒りの衝動を受け止める可哀想なかなちゃんの舌も甘くて、可愛くて、思わず歯を立てたくなった。
「ひぅっ、んっ、や、やだっ」
かなちゃんも必死で顔を背け、俺の胸を押し返す。
誰に失恋したのか知らないけど、そいつの方がいいのか。
俺よりも神崎先輩の方がいいのか。
なんで俺じゃないの……?
「かなちゃん、神崎先輩とヤったの?こんなに家が近いのに、わざわざ泊まるくらいだから、したんだよね?そうやって慰めてもらったんでしょ?ちょうど俺も傷心中なんだけど。俺のこと慰めてよかなちゃん。俺にもヤらせてよ」
頭の中の最悪な妄想でかなちゃんを汚して憂さを晴らすように捲し立てた。
直後、ぱんっ、と乾いた音が部屋に響いて、俺は打たれた頬に手を当てた。
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