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第61話
「落ち着けって言ってるだろ!啓太!」
「……っ」
珍しくかなちゃんが声を上げ、我に返った俺は自分のしたことの愚かさに気付く。
俺は何をして……。
「引っ叩いてごめん……」
引っ叩かれて当然だった。俺は無言で首を横に振る。
謝らなくちゃいけないのはこっちの方だ。
俺はかなちゃんの上から体を退かしてかなちゃんの体を起こしてやった。
「啓太、何か勘違いしてるみたいだけど、神崎は俺の友達だよ。それに男だ。啓太が考えているような関係じゃない」
神崎先輩への嫉妬。
それだけでこんな、前後不覚に陥るような真似をして。
本当にみっともない。
体だけ大きくて、中身はちっぽけ。
年上且つ義兄であるかなちゃんは、俺なんかよりずっと大人だ。
俺は急激に恥ずかしくなり俯いたまま、顔が上げられなくなってしまった。
そして自分のしたことを悔いた。
「それに啓太。啓太の好きな相手って米本君だよね?」
え……!?はっ……!?
幼稚な衝動でかなちゃんを組み敷いて、神崎先輩との仲を邪に勘繰り、俺にもヤらせてと言ったのに。
どうしてここで米本が出てくるんだ……。
「い、いや、かなちゃん、米本は別にっ……」
「いいんだ啓太、隠さなくてもいいよ。屋上で一緒にご飯食べた時にすぐわかったよ。米本君、明るくていい子だった。俺は……いいと思うよ、米本君」
「ちょっと待ってよ、かなちゃん!じゃあ俺のこの気持ちは!?俺、神崎先輩に物凄く嫉妬したんだよ!かなちゃんが泊まりに行った後、神崎先輩にかなちゃんを取られたと思った。この気持ちはどう説明すればいいんだよ……!」
「啓太……」
かなちゃんはつぶらな瞳で俺を見詰め、ほんの数秒視線を交わすと、サッと目線をずらした。
「あのさ、俺達兄弟としての距離感が少しおかしくなってるんだと思う。啓太には好きな人がいるのに俺とその……キスの練習なんてしたから俺への情みたいなものが強く湧いて、神崎に嫉妬したんじゃないか?啓太が俺を想う気持ちは兄に対して、だと思うよ。……俺も、啓太のことは、弟として大切。だからもうキスするのやめよう。兄弟はそんなこと、しない。ついでに寝起きのキスは逆に啓太としかできないな。好きな人とは恥ずかしくてできないや」
「……っ」
最後に笑いながらそれだけ言って、かなちゃんは部屋を出て行った。
なんだよそれ……。
俺の好きな人は米本じゃないし……。
しかもかなちゃん、誰に振られたのかも謎のままで。
確かなことは、薄っすらと見え隠れしていた俺の恋心が拒絶されたということだけ。
なんだよ……っ……。
いつしか視界が涙の幕で覆われて、俺は悲しみの涙に溺れてしまいそうになった。
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