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第64話

かなちゃんは唇を噛んだまま、言葉を発せずにいた。 「最初は兄貴に恋するなんて、頭おかしくなったんじゃないかって自分でも思ったよ。だけど自覚してからもこの気持ちを止めることなんてできなかった。かなちゃんを抱きしめて、キスして、それから……」 「も……言わないで、啓太……」 弱弱しい声。直後かなちゃんがぶるっと身を震わせた。 「かなちゃん?」 「そ、想像しちゃう、から……」 想像……?俺今何言ったっけ。 抱きしめて、キスして……。 そう言ったよな。 かなちゃんは、俺に抱きしめられて、キスされる想像をしたってことなのか? 待ってかなちゃん。そんなこと、好きじゃなかったらしない。 好きな人と肌を合わせるのは幸せなことだから。だから想像するんだ。 俺が思うにあと一押し。決定的な言葉が何か足りないから、かなちゃんは一歩引いて考える。 足りないものが言葉だけとは限らないけど。 それは何なの? 考えろ。考えろ俺! 俺は今、今日までの人生における恋愛の岐路に立っている。 相手は義理兄。兄貴となんて普通じゃありえないことだ。だけどこんな風になるくらい、好きになってしまった。 あ……。 「かなちゃん、俺、弟やめていい?」 「え……」 「俺が弟だからダメなんだろ?そんでかなちゃんは俺の兄だから……。それが理由なら、俺、弟やめるよ」 「ば、ばかなこと言うな!そんな……、啓太が弟じゃなくなったら、俺、俺……」 「兄弟やめれば俺と……できるよね?」 「……っ、だめ」 かなちゃんは頬を紅潮させて首を横に振る。 「何がだめ?」 「も、やだ啓太、に、兄ちゃんを困らせるなよ!」 「それやめようよかなちゃん。ね、お願い。俺を見て」 かなちゃんが首を縦に振る様子はない。 俺は少し焦り始めていた。 俺はベッドサイドに腰かけて身体を固くしているかなちゃんの顎をくっと持ち上げた。 キスして、気持ちいいことさえしちゃえば、こっちに流されてくれるって。そんな風に思っていた。 「かなちゃん」 「啓太……んん」 嫌がるかなちゃんの身体をぐっと抱き寄せて唇を重ねた。後頭部もがっちりと押さえつける。 かなちゃんの首に力が入っていて、同意でないことは明らかだった。 でももう、俺にはどうしたらいいのか。これ以外に思いつくことなんて、何もなかった。 かなちゃん、好き。好き。好き……。 思いの丈をぶつけるように、かなちゃんを抱き締める。 「ん……んふ……」 かなちゃんの身体から余分な力が徐々に抜けていくのがわかる。

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