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第106話 流星群
星を数えていた。
他にすることがなかった。
仰向けに寝そべれば、背中のコンクリートが温かい。昼間の熱をまだ蓄えているのだろう。
「満月だからなぁ」君は不服そうに言った。
「もう少しすれば沈むよ。そうすれば」
ペルセウス座流星群は今夜が極大だ。運の悪いことに満月の明るさが邪魔になるけれど、夜中の2時半頃にはその月も沈むはずだ。そこから夜が明けるまでのわずかな時間に賭けて、僕たちは今日、深夜の校舎に忍び込み、屋上までやってきた。屋上に出る扉には昔と同様に鍵がかかっていたけれど、開け方のコツなら知っている。ここに通っていた頃に、悪ガキ仲間の君と研究した成果だ。
僕らはもう、ここの生徒ではない。ここにはもう、一人の生徒もいない。
廃校となり、校舎の解体も決まっている、僕らの母校。
「ああ、もう、分かんなくなった。せっかく数えてたのに」僕は言った。
「何を?」
「星」
君は笑った。笑ったけれど、その後にはすらすらと答えた。「肉眼で見えるのはだいたい6等星までで、その数は全部で6000とも8000とも言われてる。北半球ではその半分が見えると考えると、3000個から4000個ってところじゃない?」
「思ったより少ないな」
「そう?」
「失恋すると、『女なんか星の数ほどいる』なんて慰めるじゃないか。けど、星より地球上の人間のほうがずーっと多いってことだろう?」
「肉眼では見えない星も入れたら、それこそ数えきれないほどあるよ」
「見えなきゃだめだろ。見えない相手に恋なんかしない」
「そう? でも、それを言うなら、見えるだけでもだめだろ。ふれることができなきゃだめだ。さわれなかったら、抱き締めることも、口づけることもできやしない」
僕は君にそっと手を伸ばす。でも、けれど、その手は君の身体を突き抜けてしまう。
最近、毎夜のように僕の夢枕に立つ君は、あの頃の少年の姿のままだったから、そんな気はしていたんだ。
あの頃だって、僕は君にふれることなどできなかったよ。だったらあれも恋ではなかったと君は言うのかな。
「でも、僕は君が好きだった」
僕がそう言うと、半透明の君は少し淋しそうに笑い、揺らいで消えた。
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診断メーカー「あなたに書いて欲しい物語2」のお題にて作成しました。
古池十和さんには「星を数えていた」で始まって、「揺らいで消えた」で終わる物語を書いて欲しいです。なんだか懐かしい話だと嬉しいです。
#書き出しと終わり
https://shindanmaker.com/828102
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