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第125話 First Kiss
君と初めてキスをしたのは僕の部屋だった。
いつもつるんでいた奴に彼女が出来て、小学校からの腐れ縁仲良しトリオの三角形が崩れた日、僕は君を部屋に呼んだ。
――俺は彼女なんか要らない、おまえと遊んでるほうがずっと楽しい。
負け惜しみでもいいから、君がそんな風に言ってくれないものかと期待した。
「あいつ今頃、彼女とデートしてんのかな」
「遊ぶところと言ったら土手とゲーセンぐらいしか知らないのに、どうしてんだろうな」
「彼女とメシ食うのに牛丼屋連れてってドン引きされてるかもよ」
「ありそう」
顔を見合わせ、その場にいない奴のことを笑う。
ひとしきり笑った後で、君が呟いた。「……キスとか」
「え?」
「キスとか、すんのかな」
「あいつが?」
「想像つかねえけど、するよな」
「……したことある?」
「誰が」
「おまえが」
「あるわけないだろ。おまえだって」
「うん。ない」
「……どんなんだろな」
「知りたい?」
知りたいと答えたら次に僕が何をするのか、君には分かっているはずだった。笑って冗談にしてしまえば、僕も同じように笑って済ませるだろうということも、君には予想できたはずだった。
でも、君はそうしなかったから。ちょっと緊張した面持ちで僕を見つめたから。僕が顔を近づけたら、きゅっと目をつぶったから。
だから僕は、君にキスをした。
「……こういう感じ。感想は?」
照れ隠しでへらへら笑いながら言う僕のことを、君はしばらく見ることもできないでいた。予想外の可愛らしい反応に、僕は改めて気がついた。
――君が好きだよ。ずっと前から、好きだったよ。
目を逸らしたまま、君が言った。「なあ、これって」
「ん?」
「これって、みんなそうなの? 誰でもこうなるの?」
「何が?」
「好きな奴としたからこんなにドキドキすんの? それとも、誰が相手でもそうなの?」
「……え、今、なんて?」
「だから、誰が相手でもキスってこんなにドキドキ」
「違う、その前だよ」
「その前って、好きな奴と……あっ」
君は慌てて口元を手で押さえた。でも、もう手遅れ。
僕は君の手をそっとどかして、もう一度キスした。
「……分かんないよ。僕も、好きな人としかキスしたことないから」
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5/23 は「キスの日」だそうで、それに寄せてTwitterに上げました。
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