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第128話 眠り姫と蝸牛

 たまには遠回りしてみようか。病院に向かう途中の気まぐれは、今日がちょうど一年目だったから。  いつもバスで往復するばかりで、こんな遊歩道があるとは知らずにいた。君も知らないだろう、見事な紫陽花の道。  一年前の今日も雨だった。濡れた路面。スリップ事故。バイクは大破して、君が助かったのは奇跡だった。  僕に連絡が来たのだって奇跡だった。僕らの関係は秘密だったから。君が直前に電話をかけたのが僕じゃなければ、あのまま会えなかっただろう。  あの日も今もただ祈ることしかできない。命は繋がったものの、あの日以来、君の意識は遠いまま。  紫陽花の葉に蝸牛が這う。その緩慢な動きでさえ羨ましい。指の一本でも動いてくれたら、瞬きのひとつもしてくれたら、君の想いを全力でたぐり寄せてみせるのに。  病室の君は今日も眠り姫。その細く萎えた腕を蝸牛が這うようにゆっくりと撫でた。 「僕だよ」  そう呟くと君の指先がかすかに動いた。  もちろん君の気持ちはそれだけで伝わった。 ------------------------------- 古池十和さんには「たまには遠回りしてみようか」で始まり、「それだけで伝わった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば3ツイート(420字程度)でお願いします。 #書き出しと終わり #shindanmaker https://shindanmaker.com/801664

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