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第132話 誰にも言わないよ

「君と秘密を分け合いたい。大丈夫、このことは誰にも言わないよ」 顔面蒼白の君に向かって、まるで見つけたのが僕でラッキーだったと言わんばかりに僕は言った。 「その代わり、もうこんなことはやめたほうがいい」 更には君の後ろめたさを利用してそう持ちかけると、君は観念したように頷いた。 「ほら、立って。スカート、汚れてないか? うち、すぐそこだから寄って着替えればいいよ」 「でも……家の人……」 「僕、一人暮らしだから。父親が海外転勤になってさ、僕はあと一年で卒業だから残った」 明らかにホッとした表情を浮かべる君を見て、僕もホッとした。別に君を怖がらせたいわけじゃない。 ずっと好きだった。万年トップの成績。端整な顔立ち。穏やかな性格。運動神経だって悪くはない。何をとってもパーフェクトな君に憧れる者はたくさんいて、僕もその一人だった。 やがて僕は、君に憧れる「その他大勢の一人」であることに耐えられなくなった。僕を意識して欲しい。僕だけを見て欲しい。それが叶わないぐらいなら、大失態でもしでかして優等生の座から引きずり下ろされてしまえばいい。それでも僕は君に幻滅したりしないし、ライバルがいなくなるなら好都合だ。 しかし君はそんなミスは犯さない。品行方正成績優秀のまま、ぶれずにトップに君臨し続けていた。 その君と、こんな場所で出会うとは思ってもみなかった。 「うわ」 と声が出てしまったのは、そこが公園のトイレだったからじゃない。君がその男子トイレの個室から、スカートを穿いて出てきたからだ。 「あ……君……隣のクラスの……」 どうやら僕の顔ぐらいは知っていてくれたらしいが、そのことは君にとっては「より悪い」偶然だったのだろう。トイレだというのにその場に崩れ落ちてしまった。 「何してるの。こんな時間に……そんな格好して」 「……」 「もしかして、そういう趣味?」 君は唇を噛み締めた。23時近い夜の公園。駅前の大通りから住宅街に向かうにはちょうどいい抜け道になっているここには、ある噂があった。夜ともなるといわゆる男性同士の「出会いの場」になるって。 「だ、誰にも言わないで。秘密にして」 震え声で言う君は、いつもの堂々とした姿とは別人だ。でも、常に優等生を期待される君を支えていたのが、この「趣味」なのかもしれない。そう思うと、君のスカート姿も愛しいものに思えてならない。 そうして、僕は君に手を差し伸べたんだ。 君を家に連れ帰り、着替えと風呂を貸した。風呂から出てきた君は上気したピンクの頬で、貸した服は君には少し大きくて、これが噂の「彼シャツ」かと僕は大いに興奮した。 「誰にも言わないから」僕は君の手首をつかんだ。「あんな格好をしてあんなところにいたってことはさ、その気があったんだろう?」 君の顔が更に赤くなり、小さく頷いた。 「僕は、君のことが好きだったんだ。本当だよ。だから、もし、その、そういう相手が僕でいいなら……」 その瞬間、君の目が光ったのを僕は見逃さなかった。 「本当に?」 「ああ。君のためなら何でもしてやる」 「何でも?」 「うん」 「そう?」君は僕の背中に手を回した。「僕がこっちなんだけど」君の指先が僕のお尻を刺す仕草をした。「僕に抱かれる気、あるの?」 あの日以来、君は時々僕の部屋を訪れる。決まって女の子の服を着て。その格好をしている時に言い寄ってきた、「抱くつもり」の男を「抱いてやる」のが好きなのだとか。 君は今日もスカート姿のまま、僕に乗っている。君に見下ろされ、蹂躙されていくのは、ぞくぞくしてたまらない。 君と僕の相性はこんなにばっちり。 ああ君、愛してるよ。愛されてるのも分かってる。 長かった僕の片想いも終わり。そう、だからもう終わりなんだ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 古池十和さんには「君と秘密を分け合いたい」で始まり、「だからもう終わりなんだ」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば11ツイート(1540字)以内でお願いします。 #書き出しと終わり #shindanmaker https://shindanmaker.com/801664

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