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第146話 永遠の子供
涙は星になったんだ。だからもう泣くな。
そう言ってあなたは私を抱き締めたけれど、泣いていたのは私じゃなくてあなたのほうだった。幼い私は自分の身の上に起きたことが理解できず、ただ呆然としていただけ。
下の子、この間小学校入学したところでしょ。かわいそうに。
上の子だって高校出たばかりのはずよ。これからどうするのかしら。
弟だけならともかく、兄弟一緒に引き取るのはちょっとなあ。
でも、お兄ちゃんと一緒じゃなきゃ嫌だって言ってるとか。
連れ子同士の兄弟なのに仲良いのね。
ご両親もやっと本当の家族らしくなってきたって言ってた矢先に、こんな。
相手の居眠り運転だってね。運が悪いとしか。
弔問客が私たちを見ながらヒソヒソと話している。あなたは私を更に強く抱き締め、外界の雑音から守ってくれた。
大丈夫だ。大丈夫。俺がいるから。ずっと一緒にいるから。
あなたの声だけが私に届く。あの瞬間から、私の世界はあなたが総て。
あなたは合格していた大学には行かず、私を養ってくれた。二人分の保険金があればそんなことをしなくても済んだはずなのだけれど。手つかずのその金は、私の進学、つまりは私のために使うつもりだったと知ったのは、自分があの日のあなたと同じ年齢になったとき。
あのときのあなたはうんと大人に見えていたけれど、本当はこんなにも心細かったのだろうか。まだ手のかかる幼い弟と二人で生きていこうと、どうして決意できたのだろうか。
「おまえは大学行けよ」
「どうして。働くよ。兄さんのほうが成績よかったのに自分だけ大学なんか」
「そのために頑張ってきたんだ、俺のわがままを聞いてくれよ」
私はあなたが大好きだった。だからこそ苛立った。いつも私を優先して、自分のことは後回し。私の進学を「俺のわがまま」と言う、そんなあなたのカッコつけにつきあうのはもうコリゴリだと思った。私は、あなたにあなたの人生を謳歌してほしかった。
「俺の人生? 充分楽しんでるよ、おかげさまで」
「何言ってるんだよ。もっと他にあるだろ、楽しみ方」
「たとえば?」
「趣味とか……恋愛、とか」
「恋人を作れって?」
「そうだよ。結構モテるくせに」
「おまえもそういう年頃か。あ、分かったぞ、さては自分が彼女欲しくて、俺がうっとうしくなったんだな?」
また人のせいにして笑うあなたを、私は許せなかった。……いいや、違う。あなたがてんで見当違いのことを言うから、苦しかった。
だって。
私にとって、あなたは世界の総て。
彼女どころか、あなた以外を好きになることなんかあるはずもない。
でも、あなたはいつか誰かと恋をして、私を置いていくだろう。ここまであなたの人生を犠牲にさせておいて、それを引き留めることはできない。なのにあなたは、まるで未来永劫私のそばにいるようなことを言う。
一人にしないで。誰のことも好きにならないで。
それができないのなら、今すぐ目の前から消えて。何の期待もさせないで。
言えない言葉を、心の裡で繰り返す。
「分かった。大学、行くよ」
満足そうに頷くあなた。合格通知が届いて、私はようやくあなたに告げる。
「これからは一人暮らしするから。今までありがとう」
あなたを自由にしたかった。私から解放してあげたかった。そのためには、大人にならなくてはいけなかった。あの小さな弟ももう大人になったんだ、だからもう大丈夫なんだと、あなたに安心してもらわなければならなかった。でも、実際口にしたらとても辛くて、私はあの日流せなかった涙をこぼした。涙は星になった、あなたは確かにそう言ったはずなのに、溢れる涙は留まることを知らなかった。あなたは再び私を抱き締める。
「そんなに泣くくせに、一緒にいちゃだめなのか?」
「だって、いつかは離れていくんだろう。だったら今」
「約束したよな、ずっと一緒にいるって。おまえはどうなの」
「……いたい。ずっと一緒に」
泣きながら重ねる唇の熱に、私は思い知る。
私にとって、あなたは私の総て。あなたにとっての私も同じだったのだと。
あなたの愛を一身に注がれて当然の存在。
そう、私はあなたの永遠の子供。
いつまでも、
私はまだ子供だ。
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古池十和さんには「涙は星になった」で始まり、「私はまだ子供だ」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば12ツイート(1680字)以内でお願いします。
#書き出しと終わり #shindanmaker
https://shindanmaker.com/801664
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