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第156話 千回の旋回 ※「その恋の向こう側」1000話記念
入学式で隣り合った席だった。偶然ですらない。新入生の名前を五十音順に配置しただけの話だ。それを運命と勘違いしたくなる程度には、その恋に夢中になった。
恋の成就など望まなかった。同じクラス。同じ水泳部。しかも得意種目が平泳ぎという点も被っていたものだから、早々に「ライバル関係」と見做されたのは幸いだった。いくら彼を見つめたところで誰にも不審がられることはなかったし、殊更にアクションを起こさなくても彼は自分を意識してくれた。
彼が自分を見てくれるなら、ライバルでも、単なるクラスメイトでも構わなかったのだ。
――そう思いつつ、相反する感情がいつも渦巻いていた。
どうせ叶わぬ恋なら最初から何もないほうがいい。俺の存在なんか気付かないほうがいい。半端な友情なんか要らない。年老いたのちに「良きライバルであり、友人だった」などと思い出されるなんてぞっとする。
好きだ、と千回思った。友達でいいから近くにいたいと千回思った。そのたびに忘れたいと思った。友達なんかになりたくないと千回思った。千回の衝動。千回の逡巡。千回の欲情。千回の後悔。千回の旋回を繰り返した思いは、だが、いつしか彼に届いた。そして千回のキスを交わすうちに着地点を見つけた。
一人ではなく、二人でたどり着くべき、その恋の向こう側を。
-fine-
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タイトル注にありますように、「その恋の向こう側」1000話突破記念に書いたSSです。こちらをプリントしたカードとお礼状、それにキャラのイメージイラストのチェキ風カードを「記念セット」にしてBOOTHで頒布したりなどもいたしました。それから1年以上も経過したのでこちらに公開した次第です。本編が遅々として進んでおりませんが、生きてる限りは必ず完結まで書く所存です。たまに二人のことを思い出していただけると幸いです。
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