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第2話
その様子を見て堪えきれずに、吹き出してしまった。しりもちをついたその青年の手を引っ張って立ち上がらせてやる。
「ザック」
「え、えっ、アイ、ドント、スピーク、イングリッシュ?え、英語…苦手ですから」
「俺の名前はザック、ザックって呼んでください」
「ああ、日本語!話せるんですね……良かった。もしかして、日本語の上手なカッコ良い外国人が入学してきたって噂になってましたけど。あなたの事なのかな?」
「日本語の上手な……ね。まあ、良いか、実は日本語で話したことはほとんどないんだけれどね。かっこいいと言われたところは否定しないよ。ありがとう……えっと君は?」
「否定しないんだ」ころころと鈴が転がるように可愛く笑う、こんなかわいい大学生もいるんだと思う。
「ザックさん初めまして。僕の名前は波が留まると書いて波留 です。漢字はさすがに無理ですよね」
「そんなことないよ、漢字は意外に簡単、というよりあの形が絵のようで覚えるのが楽しいよ。うーん、カタカナが一番難しいかな。英語も他の外国語も全く違う音で表現されているからね。コーヒーがcoffee だと気づくまでしばらくかかったくらい。ということで、コーヒーでも一緒にいかがですか、波留?」
「えっ?ああ、はい?」
驚いた顔の波留を連れてこっちへと手招きする。別に下心も何も無いが、なぜかもう少し波留と話してみたかった。
俺はコーヒーにはこだわりがある。アメリカ人はみんな、やたらと濃いだけで味の無いコーヒーを飲んでいるという偏見は捨ててほしいものだ。コーヒーが美味しいのはヨーロッパだけじゃ無い。
波留は不思議そうな顔をして俺に聞いてきた。
「ザックさん?学食じゃなくて、どこへ行くのですか?」
「最近見つけたカフェ。カプチーノが美味しいんだよ、波留は嫌い?」
「好きですよ」
そう言ってふわりと微笑む、その笑顔にどきりとした。綺麗に笑うんだな。単にカプチーノが好きだと答えただけだ。俺に告白してきたわけじゃ無い。
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