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第5話
「うわぁっ、波留っ!お前は、またっ!」
ずるずるとデカい先輩らしき人に引きずられて俺の前から波留が消えた。
「悪い、ごめんね。ザック君だっけ?こいついつも酔っ払うとこうで、本当に悪気はないんだ。驚いたよね?許してくれないか」
波留は酔っ払うと見境なく誰かにキスをしようとするのか。キス魔ってこと?
「本人、何も覚えてないんだよ。後でしっかり言いきかせておくから、本当に悪い」
え、そして自分は覚えてないってそれってどうなのだろう。いや、キスは気持ち良かった、けど誰とでもってそれは何だよ。
それよりも、この男は誰だ。波留は「まさむねー、チューしよーよ」と、甘えている。恋人なのか?いないと言ったくせに、いや正確には「いるように見える」だった。日本語難しい。
なぜか俺は人のものにばかり恋をするらしい。
「しねえよ、アホ波留。みんな、そろそろお開きにするぞ。ほれ靴履け、帰るぞ波留」
「んー、まさむね、眠い……」
そのでかい先輩に抱え上げられるようにして波留は帰ってしまった。俺も帰らなきゃ。もう苦しい思いはごめんだ。花咲く前に春は終わった、本当に良かった本気になる前で。
「あ、ザックって呼んでいいかな。俺、一年の萩谷。ハギって呼んでくれればいいや。練習は水曜日と金曜日、これからよろしく。でもビックリしたよねえ、波留ちゃん先輩ってあんななんだ。キスされてショックだったろ。俺なんて、驚いてジュース吹いちゃったもん」
「ああ、まあ。よろしく、ハギ。じゃあまた練習の時にでも」
「許してやってよ、波留ちゃん先輩バスケやってる時メッチャかっこいいんだぜ。するするってディフェンスくぐってボール運ぶの。ガードはああじゃなきゃな、また体育館で」
同じ一年のハギと手を振って別れた。楽しそうなやつだ。少なくとも波留のおかげで友達だけはできた、それでよしとしよう。
週末は久々に蓮の顔でも見に行こう、匠が面倒だが仕方ない。あいつが蓮の笑顔を消さない限り俺には何も言う権利は無いし、幸せそうならそれでいい。
俺は常に誰かの後にしか出会えない、まあ、蓮の場合は最初の出会いが早すぎたんだろうけど。ため息をつきながら一人暮らしの寒いアパートに帰ることにした。
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