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第16話

 波留が口をきかないと言った途端、みんなシュンとした。波留が笑っている事が第一義なのだと分かる。  「俺は、波留の笑顔が何より大切なのです。波留がいつも楽しそうに笑ってられるように頑張ります」  俺の言葉に波留が嬉しそうに笑うと答えてくれた。  「えー、ザックはこれ以上頑張らなくてもいいよ。もう既に頑張っているし、とても大切にされてるのわかるよ」  「あー、何これ。惚気られてるよね?甘すぎて気持ち悪くなりそう。政宗帰ろ、私たちの役割はおしまいだわ」  「お、おう。じゃあな波留、また大学でな」  政宗先輩は美咲さんに引っ張られて帰って行った。帰り際に美咲さんが、「お兄さん達もそろそろ波留離れしないとまずいよね」と釘をさしていった。  「あ、あの……波留の携帯」  明希さんがそっと波留に手渡してきた、波留がにっこりと笑うと明希さんが驚いた事を言う。  「波留、俺が守ってたんだよ。ありがとうのチューは?」  えっ?と、思ったら波留が軽く音を立てて明希さんの頬にキスした。  「「えーーっ!波留、明希にだけか?」」  那津さんと風由さんが同時に声を上げる。日本人としてのアイデンディティはどうした?そう思ったが、二人とも波留にキスしてもらって嬉しそう。  アメリカでも男同士でキスそんなに簡単にしないから。兄弟とかねえ、そういう問題じゃないでしょう。  これで酔っ払った時の波留のキスの理由がわかった。波留のファーストキスは俺だと波留は思ってるが、俺じゃなくてこの三人のうちの誰かだというのは間違いない。  「しかし、波留に恋人ができる日がくるなんてなあ」  しみじみと那津さんが言う。誰も俺が男だと言うところは問題にしないのが不思議で仕方ない。  問題ないのなら別にそれはありがたいが、絶対にこの家の価値観はずれている。

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