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第128話
横溝
別に…
別に佳川のことが好きだとかそういう理由で引き受けたのではない……
ただ、野宮先輩の手を煩わせるわけにはいかないと思っただけだ。
そんな役目は俺一人で十分。
自分の親友を救ってくたことに感謝してるし、自分と似た目にあった彼に同情もしているからだ。
彼は素直に意見をぶつけてくるので戸惑うこともあるけど真っ直ぐだし、正直者だと思う。
たまにおちゃらけるから本気で言っているかわからなくなることも多々あるけど…不快じゃぁない…それに相部屋のこの部屋は現在俺一人で使っているので、預かることに何の問題もないのだ。
前のルームメイトは同室の俺が嫌で、別の部屋が空くなりさっさと移ってしまった。
…別に気にもしない…
机に向かってカチカチとシャーペンを鳴らし問題集に向かい問題を解いていく…
…
憧れなんだろう…
そう…佳川が俺に抱いている感情は愛情ではない…
理想とする人物に強く心が引かれることはある。きっとそれだそれ…
問題を見ながら、無意識にページの端をシャーペンでトントンと軽く叩く。
…
その証拠に、
キス一つ出来ないじゃないか…
…
トントン…
…
…
あ?
あーと………
別にキスして欲しいわけじゃない。
キスも出来ない腑抜けな奴なのかこいつはって…ただ思っただけで…
トントン…トントン…
…
べ、別に…俺は期待をしてたわけではなく!
トントントントントントントントン…!
って…期待ってなんだよっ!!
あいつに何期待してんだ俺は!!
…
「あ…」
トントンし過ぎてシャーペンの芯がなくなってしまった。
で、何やってんだ俺…
さっきから一問も解けていない…それよりもずっと佳川のことばかり考えている自分が急に恥ずかしく思えてしまった……
「はぁ……何やってんだ俺…」
…ん?
そういえばさっきから部屋が静かだ…
振り返り隣を覗いてみると、ベッドに寝転がりスヤスヤと眠る佳川の姿。
「……ムカつく…」
気持ちよさそうな寝息が聞こえてくるのに、若干の苛立ちを覚えベッドに近づいた。
こちら側に横向きになって寝ている佳川の寝顔は予想外に凛々しい……愛嬌のある瞳が閉じていると鼻筋が強調されて涼しげな印象を感じさせた。
…昨日はもう少しだらしない寝顔だった気がしたけどな…何だ結構…いい男なんじゃ……
……
ハ!
我にかえって慌てて頭をブンブンと振った!
だから!
だからぁっ!何なんだよ!
決して佳川に見とれてたんじゃないぞっ!!!
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