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第139話 夜の庭園
夜の闇に紛れて、そいつは緊張感なく無造作に動いていた。
計画したのか、無計画なのかわからないけど、
まるで踊るようにルンルンと何かを巻く。
恐らくは…泥水。
月明かりと仄かに照らす外灯にそって浮かび上がるその姿は、予想通りの人物でやれやれと溜息をついた。
…
「そんなことして楽しいか?」
声をかけると動きをとめ、ビックリしたように振り返り僕の姿を見てまた驚いたようだった。
「あれ、三階くん。何してるの」
「それはこっちのセリフ。粉川こそ…一年の部屋に何やってんだよ」
「…えー三階くんには関係のないことだよ?ねぇ…成谷先輩は何してるの?」
「…さぁ…寝てるかなぁ…」
「三階くん成谷先輩とちゃんとセックスしてるの?できてる?気持ちイイ?」
「してるよ毎日。とっても気持ちイイよ…君が想像できないくらい愛し合ってるから」
「……そう」
「僕はね粉川。君の事そんなに嫌いじゃないんだよ。式典の日、原稿を隠された時もそんな気持ちにはならなかったんだ。美しくて我儘に生きている君が魅力的に見えたのかも。でも今回は違うんだ…こんなことをしちゃいけないんだよ…」
酷く荒らされた庭が視界に入ると、心が沈んでいくのがわかる。
佳川の部屋のベランダは、再び荒らされていて見るも無残だ。
粉川の足元には、泥水が入っているだろうバケツが置かれていて、粉川の両手は泥に汚れていた。
「こんな時間にところに三階くんが来ちゃ駄目だよ?いいなぁ…成谷先輩…怖いけど先輩の事考えたら身体が疼いちゃうんだよね…ふふふ」
無邪気に笑う粉川は、美少年と言われるだけあって妖艶であったけれど、すでにそんなことはもうどうでもいいことなのだ。
僕が何故ここに居るか彼は全くわかっていないし、考えもしない可哀想な子だった。
「粉川…ここはね。僕の部屋だよ?一年前は僕が使っていたんだ。この庭は僕のお気に入りで君が立っているそこには小さなバラが植えられていたんだ。…汚いその足をどかせよ」
成谷先輩とこの庭で初めて会った時のことを思い出す。
ミニバラを植えるのに手入れをしていた時、ふいに現れた先輩は日差しを浴び柔らかい雰囲気をまとっていて、長めの髪が風に靡いて綺麗だった。
そのキラキラした記憶までも汚されているようで気分が悪い。
僕が今とても冷静で、落ち着いている理由はわかっている。
滅茶苦茶、頭に来ているんだ。
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