140 / 142

第140話

「…三階…くん?」 「言ってることがわからないのかな?そこをどけって言ってんだよ?自分のしたことを理解できている?君が今している行為が僕の逆鱗に触れているんだ。馬鹿なの?やっぱり君は馬鹿なのか?」 「…ちょと…三階くん怖いよ?お坊ちゃまがそんなこと言っちゃ駄目だよ?……!やっ!ちょっと!!……っ!!」 僕はバケツの中に手を突っ込み、底に沈んだ泥を掴んで粉川の顔に叩きつけ、そのまま口の中に押し込んでやった。 その衝撃に耐えられず、その場にしゃがみ込む粉川を押し倒しそのまま馬乗りになる。 汚れた口を両手で塞ぎ、力一杯に押さえつけた。 「……あのね…泥水がかかるとさぁ、植物は光合成ができす弱ってしまうんだ…そのまま病気になって死んでしまうんだよ。粉川……君、知ってた?」 「………ん"ん"ーーーーー!!っ……!!」 「……君は、どうなるんだろうね……このままだとどうなるんだろう……あ、知ってる?僕が怒ると、兄さんも父さんも手が付けられないんだよ?」 「……っ!」 「この庭は、僕のお気に入りの場所だ。よくもこんなに荒らしてくれたね……君のお気に入りはその綺麗な顔かなぁ…どうなの?聞いてる?粉川」 「………」 「……おーーい……」 「……」 「もういいだろう…千歳。そうやって口を塞いでたら喋ることも、ろくに呼吸もできない……」 ふわりと身体が浮き、粉川から身体が引きはがされる。 そのとたんに粉川が勢いよく咳き込み、苦しそうに悶えだした。 喉の奥まで入り込んだ泥を、吐き出すように必死にゲェゲェ嘔吐く姿が滑稽だ。 「気持ちはわかるけど、お前までこんなに汚れて…こういうことは俺とか碧人に任せておけばいいものを…」 「……」 「千歳……聞いてるか?おい」 「………」 「はぁ……汚いな……汚れた身体は綺麗にしないとな?……部屋に帰ったら洗ってやるから……」 「あ、あれ?………な、成谷先輩?」 気がついたら、成谷先輩に抱きしめられてハッと我に返る。 怒りすぎて、記憶が微妙に飛んでしまっていた。 苦しそうにぜぃぜぃと肩で息をする粉川は、自分に起こったことが理解できているのか、現れた成谷先輩の姿に怯えたのか、小さく震えていた。 月明かりが照らす小さな庭園は、悲しいくらい無残で、それを思うだけで胸が痛い。 ここの住人にとても申し訳なかった。 明日、掃除をして綺麗に片づけてあげよう。 またここに綺麗なバラを植えてあげよう。 僕を助けてくれた優しいあの子は、無邪気に笑っていた方が可愛いから。 それに……僕の大切な親友も、それを望んでいるはずだから。

ともだちにシェアしよう!