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第140話
「…三階…くん?」
「言ってることがわからないのかな?そこをどけって言ってんだよ?自分のしたことを理解できている?君が今している行為が僕の逆鱗に触れているんだ。馬鹿なの?やっぱり君は馬鹿なのか?」
「…ちょと…三階くん怖いよ?お坊ちゃまがそんなこと言っちゃ駄目だよ?……!やっ!ちょっと!!……っ!!」
僕はバケツの中に手を突っ込み、底に沈んだ泥を掴んで粉川の顔に叩きつけ、そのまま口の中に押し込んでやった。
その衝撃に耐えられず、その場にしゃがみ込む粉川を押し倒しそのまま馬乗りになる。
汚れた口を両手で塞ぎ、力一杯に押さえつけた。
「……あのね…泥水がかかるとさぁ、植物は光合成ができす弱ってしまうんだ…そのまま病気になって死んでしまうんだよ。粉川……君、知ってた?」
「………ん"ん"ーーーーー!!っ……!!」
「……君は、どうなるんだろうね……このままだとどうなるんだろう……あ、知ってる?僕が怒ると、兄さんも父さんも手が付けられないんだよ?」
「……っ!」
「この庭は、僕のお気に入りの場所だ。よくもこんなに荒らしてくれたね……君のお気に入りはその綺麗な顔かなぁ…どうなの?聞いてる?粉川」
「………」
「……おーーい……」
「……」
「もういいだろう…千歳。そうやって口を塞いでたら喋ることも、ろくに呼吸もできない……」
ふわりと身体が浮き、粉川から身体が引きはがされる。
そのとたんに粉川が勢いよく咳き込み、苦しそうに悶えだした。
喉の奥まで入り込んだ泥を、吐き出すように必死にゲェゲェ嘔吐く姿が滑稽だ。
「気持ちはわかるけど、お前までこんなに汚れて…こういうことは俺とか碧人に任せておけばいいものを…」
「……」
「千歳……聞いてるか?おい」
「………」
「はぁ……汚いな……汚れた身体は綺麗にしないとな?……部屋に帰ったら洗ってやるから……」
「あ、あれ?………な、成谷先輩?」
気がついたら、成谷先輩に抱きしめられてハッと我に返る。
怒りすぎて、記憶が微妙に飛んでしまっていた。
苦しそうにぜぃぜぃと肩で息をする粉川は、自分に起こったことが理解できているのか、現れた成谷先輩の姿に怯えたのか、小さく震えていた。
月明かりが照らす小さな庭園は、悲しいくらい無残で、それを思うだけで胸が痛い。
ここの住人にとても申し訳なかった。
明日、掃除をして綺麗に片づけてあげよう。
またここに綺麗なバラを植えてあげよう。
僕を助けてくれた優しいあの子は、無邪気に笑っていた方が可愛いから。
それに……僕の大切な親友も、それを望んでいるはずだから。
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