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第17話
「…成谷先輩あのね。俺今日告白されたんだ…3年の先輩に…」
俺の組んでいる足にそっと手を添えスラックスの端を摘まんだり撫でたりしている。白いシャツのボタンは上二つ外され色っぽい鎖骨がよく見えた。
「うん」
「……断った方がいいよね…?」
…
「粉川がそう思うなら断ればいいんじゃないかな?」
「…」
あ、顔色が変わった。
生憎こいつが期待する言葉をかけてやる義理はないしそんな感情も持ち合わせていなかった。
好きとか嫌いとかはなく、たまにしたいときにセックスする。そういう関係…なんだけど最近少し変わってきた気がする。
一智は女房気取りだとこの間言っていたっけ…
「粉川は綺麗だからモテるのは仕方ないな」
「あ、うん!そうなんだよね」
甘い笑顔をするとパッと曇っていた表情が明るくなる。美人は笑っていた方がいい…そう思う。
…でもそれだけだ。
「また明日な…粉川」
この先はもうないのだと知ると落胆した様子でさっさと帰って行った。この先…この階の俺の部屋に踏み込んだことが今までないのが不満なのだろう。
「本当…かわいそう…」
「何が」
「その気もないのに期待だけさせておいてどうすんだよ。ま、媚びるだけの頭の悪い奴って俺嫌いだからいいけどーーーー」
「…一智相変わらず正直だな」
「今更?それよりさ、あの眼鏡くん行けよ。あの子さ、眼鏡ダサいけど外したら絶対可愛い系だぞ…えーと名前…」
「三階、三階千歳」
キリリとした澄んだ声。
振り替えると俺達と同じくここの最上階の住人が腕を組んで立っていた。
「おーさすが野宮会長様物知り…って、そういやもう一人一緒にいた子がミカイって呼んでたかな」
「三階って…眼鏡くんは噂の三階グループの御曹司くんか。大企業だな。へーそう見えないのが面白い。入学式の新入生代表の挨拶あの子を予定してたんだろ?体調不良で欠席したんだよな確か」
「兄が大分やり手らしいぞ。うちの新年のパーティーで見かけたことがあるけど、スゲー怖そうだった。三階千歳は次男だな。ちなみに入学式は体調不良で欠席したのではなく、ただ入室予定の寮の部屋が不満で学校行くのを嫌がったらしいな」
「おー!ワガママ!…さすがは生徒会長だな。物知りー」
「物知りって言うな。じじくさい」
2年、野宮 碧人 は仏頂面でこの場を立ち去ろうとする。
「あれ、あいちゃん帰っちゃうのー?」
「予習する…つか管弦楽部の部長と陸上部の幽霊部長!…面倒なことはしてくれるなよ」
そう言い残し真面目人間、野宮碧人こと通称あいちゃんは自室へ去って行った。
「面倒なことって何?お前が行かないなら俺行こうかなぁ…太我くんはいつにも増して消極的だしぃ」
ペロリと舌を出しながら呟く一智をため息交じりで見つめた。
「お前なぁ…彼氏いんのによくそんなこと言えるな。…あいつに殺されるぞ」
「ちょっと揶揄うだけだよ。本気で行くかよ馬鹿」
そう言うと一智もニヤニヤ笑いながら部屋へと戻って行ったのだ。
…はぁやれやれ。
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